「ずぶ六の四季」 大竹聡著
著者は酒を飲み始めて40年近くなるが、ここ数年、さらに酒がうまくなってきたという。20代の頃、腹に染みてポッと体の中に火がともるような感覚を「うまいなぁ」と感じていたが、中年になってその頻度が高まった。
酔っぱらい生活の長い著者だが、朝からは飲まない。朝はまだ二日酔いの真っただ中だからだ。しかし、旅先では朝酒をする。たとえば北九州では行けば必ず寄りたい角打ちがあって、そこでは地元の客が黙って1、2杯飲み、すっと帰る。大抵、お年を召していて「その年齢まで朝から飲んで無事に生きてこられたのですね」と心強くなる。
家でも飲むが、燗(かん)酒をチロリで用意するのが面倒で、やかんに酒を入れそのまま加熱して燗にする。これを冷やさずに飲むなら湯飲みに限る。茶を飲む気分でぐびぐびとやる。やりすぎると、当然、使いものにはならない……。
「酒で馴染んでいる」という著者の四季折々の酒風景をつづった、“酒愛”あふれる144編収録のエッセー集。
酒場での注文の呼吸から、夏にはハモやタチウオと土地の地酒を、最後の晩餐(ばんさん)に食べたい麻婆豆腐とビール、郊外の飲み屋で出された「剣菱」の樽のうまさまで。読めば酒を飲みたくなること請け合いだ。
(本の雑誌社 1870円)