「湿地」アーナルデュル・インドリダソン著、柳沢由実子訳

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 国土は北海道よりやや大きく、主な産業は漁業と牧畜、人口は36.5万人、北大西洋に浮かぶ島国のアイスランド。

 1986年のレーガン、ゴルバチョフによるレイキャビクの米ソ首脳の会談、あるいは噴煙によってヨーロッパの航空運航がまひに陥った2010年のエイヤフィヤトラヨークトル火山の噴火、といったところがこれまでの日本人のアイスランドのイメージではなかったか。そこへ新たなアイスランドのイメージを印象づけたのが本書である。

【あらすじ】エーレンデュルは、レイキャビク警察犯罪捜査官。現在50歳。かなり前に離婚していたが、離婚には困難を極め、2人の子どもとは長い間関係が断たれていたが、最近になって子どもたちが父親を捜し出して再会を果たす。しかし、娘は麻薬中毒で息子は少年更生施設を出たばかりと、どちらも問題を抱えていた。

 エーレンデュルは、レイキャビクの湿地にあるアパートで老人が殺害されたとの報を受けて現場に向かう。盗まれた物はなく、突発的で無意味な典型的なアイスランドの殺人に思われたが、死体の上に全く意味のなさない3つの単語が書かれた紙が置かれていた。

 この言葉に引っかかりを覚えたエーレンデュルは、殺された老人がかつてレイプを犯したとして告発されたことを知る。告発した女性は既に死亡していたが、この過去の時間が今回の殺人と関わりがあるのではないか。エーレンデュルは閉ざされた過去の事件の蓋を開けていく……。

【読みどころ】全編、北国の重く湿った空気が流れており、そこへ子どもたちとの確執を抱えたベテラン刑事の苦悩が重なり独特の雰囲気を醸し出している。エーレンデュル捜査官シリーズの邦訳第1作。 <石>

(東京創元社 1078円)

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