「極夜 カーモス」 ジェイムズ・トンプソン著 高里ひろ訳
2022年版の世界幸福度ランキングでフィンランドが1位を獲得、これで同国は5年連続の1位だ。幸福度ランキングは、健康寿命、1人当たりGDP、社会的サポート、寛容性、人生選択の自由など7つの指標に基づいて決められているが、フィンランドは教育面においても世界のトップ水準を誇っている。本書はフィンランドを舞台にした警察小説だが、幸福な国、フィンランドの暗黒面を照らし出している。
【あらすじ】カリ・ヴァーラはフィンランド最北部の北極圏にあるキッティラ警察署の署長。現在40歳で、1年前にアメリカ人女性ケイトと結婚した。カリのもとに殺人事件の報告が入る。被害者はソマリア移民の映画女優スーフィア・エルミ。全裸の死体の腹部には「黒い売女」という言葉が刻みつけられていた。人種問題に極めて敏感なフィンランドで、黒人女性の有名人が殺されたとわかれば全国紙が派手に報じるに違いない。フィンランド人が人種問題に敏感なのは、多かれ少なかれ、自分たちが隠れ人種差別主義者だと自覚しているからだ。
容疑者として浮上したのは、ヘルシンキの大富豪、セッポ・エニミ。13年前、カリから前妻ヘリを寝取った男だ。上司はカリが私情を挟むとマスコミに騒がれるのを危惧して捜査から外れるよう促すが、カリは事件を解決できるのは自分しかいないと捜査の手を緩めない。やがて第2、第3の事件が引き起こされ、カリが当初予想したものとは全く別の展開をたどり始める……。
【読みどころ】事件と並行してカリを悩ませているのは、妊娠した妻ケイトが寒くて暗鬱なこの地から離れたいと訴えていることだ。幸福に見える国でも、一歩中へ入るとさまざまな不条理が渦巻く地であることを教えてくれる。 <石>
(集英社 836円)