「よるのえ」 キューライス著
「ネコノヒー」や「スキウサギ」などのマンガで人気のアーティストの作品集。
ちょっと不思議なネコをはじめとするさまざまな動物をはじめ、ケーキやニンジン、卵などの食べ物、そしてちょっと変わった人間たちなどが登場するイラストに、ショートショートが添えられ、作者の独自の世界に誘う。
例えば、夜のベンチに手足の生えた「苺」がふたつ「座っている」。目の前にはビルだろうか巨大なショートケーキがそびえている。
そんなイラストに、
「やっぱ今日はトマソがいいな、なあトマソにしようよ!」「拓也、良い機会だからこの際思い切って言うね……」「なんだい? 改まって」「お願いだからトマトソーススパゲティのことをトマソって略すのはやめて、そういう風に略して許されるのは魚肉ソーセージだけだから……」
あたかも苺カップルが話しているかのようにも見えるが、他の作品を見ると、イラストとショートショートのストーリーは、それぞれ関係がありそうでなさそうな微妙な間合い。
読者の想像力次第で作品がまた別の顔を持ち始め、読み進むうちに、なんだかその奇妙な世界に迷い込んだような気になってくる。
表紙にもなっているボートに乗ったメガネをかけた茶色のネコと白い子猫が、今まさに捕獲したと思われる輝く星から金平糖を大きなビンに取り出しているイラスト。
添えられたショートショートはたったの2行。
「『ここWi-Fiあります?』
川からあがってきた河童がそう言った。」
そんな不条理なストーリーに頭の中に浮かんだ映像とイラストがなぜか呼応する。
他にも、地下鉄駅のエスカレーターで人目もはばからずディープキスをするカップルのふたつの唇のあいだに一瞬見えてしまう「酢だこ」や、真夜中の無人駅で列車を待つ私の前に到着する「生ちくわ」、快晴の空の下で行われる運動会の大玉転がしで、児童や保護者の歓声とともに鳴り響く大玉に入れられた教頭の悲鳴など。
ちょっとシュールな笑いを誘うそんなショートショートに、カップルが乗ったテーマパークの乗り物のようなものが浮かぶ水の中にペンギンにマッサージを受ける得体の知れない人物が沈んでいたり、ピエロのような衣装を着たおじさんが目玉焼きのオブジェ(作中に何度も登場)を愛でていたり、尻尾のような鼻をしたタヌキのような生き物がけん玉遊びに疲れて切り株に横たわり、その近くにはけん玉の「球」部分が頭になった謎の生き物がいたりするイラストが組み合わされている。
他にも、ベッドで読み聞かせている絵本の中に紛れ込んでしまったかのようなネコの親子や、交通事故を起こして電柱にめり込んだどら焼き、店主がクロワッサンの立ち食い寿司屋など。確かに一日の終わりに、そっとページを開くと、心の中にたまったもやもやがどうでもよく見えてきて、やさしい眠りに誘ってくれそうな「よるのえ」だ。
(大和書房 1760円)