「スター・トレックアート&ヴィジュアル・エフェクツ」ジェフ・ボンド ジーン・コジッキ著、有澤真庭訳、岸川靖監修
世界中で今なお愛され続けるSFシリーズ、「スター・トレック」の初めての劇場版映画「スタートレック ザ・モーション・ピクチャー(TMP)」(邦題「スター・トレック」)の公開40周年を記念して出版されたビジュアルブック(1979年公開、日本公開は翌年)。
今でこそ世界中に熱狂的なファンがいるスター・トレックだが、1966年に始まったテレビシリーズ「宇宙大作戦(スター・トレック)」は、視聴率がふるわず、わずか3シーズンで打ち切りに。しかし、アメリカの地方局で再放送が繰り返されるうちに火がつき、1973年にアニメによるリバイバルが始まると、その人気は社会現象となるまでに沸騰する。
1975年、実写版のリバイバルの可能性を探っていた原作者のジーン・ロッデンベリーは、パラマウント・ピクチャーズと交渉を重ね、低予算の小規模な映画を作る方向で脚本の草案を練り始める。
しかし、ロッデンベリーの草案は却下され、テレビシリーズを手掛けた脚本家が集められ、アイデアが練られる。プランは、アイデアが出るたびにスケールが大きくなり、1976年、プロジェクトは英国の脚本家アラン・スコットとクリス・ブライアント、そしてフィリップ・カウフマン監督という布陣で前進する。
カウフマン監督は、映画の視覚化と作品のもうひとりの主人公「エンタープライズ」のアップデートのため、伝説的な美術デザイナーのケン・アダムをメンバーに招聘。アダムはエンタープライズの外観を一新するデザインを出すなど、彼らが準備を進めていた映画「Planet of the Titans」は、「2001年宇宙の旅」以来、最も野心的な宇宙叙事詩となる可能性を秘めていた。
しかし、「スター・ウォーズ」公開のわずか数週間前、パラマウント・スタジオの首脳陣は、大作宇宙映画の市場は存在しないと断じ、プロジェクトを打ち切ってしまう。
そうした波乱に満ちた内部事情を、アダムによるエンタープライズの再デザインのスケッチをはじめ、彼のアイデアをもとに描かれた小惑星内部に建設された宇宙艦隊ドックやシャトルのコンセプトスケッチ(イラスト)など、完成にたどりつけなかった多くの図版と共に克明に描く。
その後、スター・ウォーズがSF映画の状況を一変させ、公開間近の「未知との遭遇」の前評判を耳にしたパラマウント・スタジオは、スター・トレックの映画化を最優先し、1978年春、「サウンド・オブ・ミュージック」などを手掛けたロバート・ワイズ監督による「TMP」の製作を発表する。
しかし、その後も製作は一筋縄ではいかず、作品の肝ともいえる特殊視覚効果を担ったロバート・エイブル&アソシエイツ社がお払い箱になるなど紆余曲折が続く。絶対に変更できない公開日までのスタッフたちの戦いを、多くの関係者の証言や製作現場や模型の写真、そして関連ビジュアルアートとともにたどる。
トレッキー(スター・トレックのファン)はもちろん、映画ファンや関係者必携のお宝本。
(竹書房 6600円)