「氷の天使」 キャロル・オコンネル著 務台夏子訳
サラ・パレツキーが生み出した女性私立探偵のV・I・ウォーショースキーの正式名称はヴィクトリア・イフィゲニアで、愛称は〈ヴィッキー〉だが、この愛称を許しているのは警官だった父の友人、マロリー警部補のみ。他の人には〈ヴィク〉と呼ばせている。気骨あるフェミニストならではの姿勢だ。
本書の主人公はフェミニストではないが、愛称どころかファーストネームで呼ばれることを嫌い、〈キャシー〉と呼ばれるたびに〈マロリー〉と訂正する徹底ぶり。「ミステリー史上最もクールな女刑事」と評されるキャシー・マロリー・シリーズの第1弾。
【あらすじ】キャシー・マロリーはニューヨーク市警巡査部長。25歳。元ストリート・チルドレンで盗みを重ねていたところをニューヨーク市警のルイ・マーコヴィッツに補導され、そのまま養女となった。養母のヘレンの深い愛情に育まれて育ったが、失感情症的なマロリーは喜怒哀楽を表に出さず、おまけに道徳観念も欠けていた。
しかしずばぬけたIQを有し、パソコン教室に通い始めると才能を開花させ、金融機関のコンピューターにハッキングしてヘレンにプレゼントしていた。ヘレンは喜ぶどころか悲しむので、やむなくハッキングは中止。その代わり、NY市警に入って情報収集の面で養父のルイを助けていた。
そのルイが折しも発生した連続殺人事件を追っているうちに犯人に殺されてしまう。一度も現場に出たことのなかったマロリーだが、自ら養父殺しの犯人の捜査に乗り出していく……。
【読みどころ】連続殺人事件の解決もさることながら、本作では並はずれた美貌を持つマロリーという特異な人間の言動に焦点が当てられ、続くシリーズ(全12作)の序幕といった趣だ。<石>
(東京創元社1320円)