「『欲しい!』はこうしてつくられる」マット・ジョンソン、プリンス・ギューマン著 花塚恵訳
スマホの普及ならびにコロナ禍の影響により、2020年の日本のネット通販市場は12兆円を超えたという。通販サイトには多種多様な商品が陳列されており、消費者はそこから欲しいものを自分で選んでいると思っているが、果たしてそうか。実は本人が意識しないところで脳の特異な構造を利用すべくさまざまな情報が企業側から流され、それによって購買欲を促されているのではないか。
本書は、神経科学や心理学をマーケティングに適用する「ニューロマーケティング」のテクニックについて、脳科学者とニューロマーケティングの専門家の2人の著者が、豊富な事例を引きながらひもといていく。
まず、記憶と体験、快と不快、感情と論理、知覚と現実、意思決定、依存、共感といったものに対して脳がいかなる働きをするのかを考察し、それを商品(ブランド)がどう攻略していくかを見ていく。
たとえば、脳は現実を直接的に体験することはなく、現実のモデルとなるもの(メンタルモデル)を構築して判断する。従って、コカ・コーラのブランド力を信じている人が目隠しで飲むと、ペプシの方をおいしいと答える人が多く、コークと分かって飲むと8割がコークをおいしいと答えるということが起こる。
またiPhoneの最新モデルを発表するスケジュールは脳が快と思うサイクルに合わせられており、最新モデルが発売される直前にはiPhoneの落とし物が急増する。つまり無意識に最新モデルを買う理由を自分に与えているのだ。
そのほか、amazonのロゴマークと広告の時計の針が10時10分を指しているのはどちらも笑顔に見える効果を狙っているなど、目からうろこの知見が満載。しかし、SNSにアクセスしたり投稿するたびに膨大な個人情報が吸い上げられていることも忘れてはならない。著者たちは警鐘を鳴らす。消費者はいいかげん「タダ」にこだわり続けるのはやめるべきだ、と。 <狸>
(白揚社 2750円)