「親指が行方不明」尹雄大著
著者はいつからか両手の親指が「行方不明」のため、コップがうまくつかめないと感じていた。中学生のとき、柔道の絞め技で自分の首を絞めたら、失神して倒れた。先輩は「普通、苦しくなったら手を離すだろう」とあきれたが、どこまでが自分なのか分からなかったのだ。自分の心や体が「まとまらない」という感覚がずっとあった。
5歳のとき、補助輪をはずして自転車に乗り、手を離して転倒したとき、著者は母に「だって心がそうさせるんだもん」と答えた。世間は心と体の噛み合わなさを「ズレ」と捉えるが、著者は「あいだ」と捉える。
そんなある日、頭上に針の穴ほどの「空の青」が見えた。
「噛み合わなさ」を抱えて生きる男性の独白。
(晶文社 1650円)