「認知症世界の歩き方」筧裕介(issue+design)著
2025年には65歳以上の高齢者の5人に1人が認知症になるともいわれている。認知症になると、心と体にどんな問題が起きるのか。いつ、どこで、どのような状況で生活のしづらさを感じるのか。
本書は、約100人にインタビューを重ね、集めた情報をもとに、認知症当事者が経験する出来事を「旅行記」のようにまとめたイラストブック。
まずは、この世界に到着した旅人誰もが乗り込む「ミステリーバスの旅」。このバスは、これまでの道のり(過去)、現在地(今)、旅のプラン(未来)が全部分からなくなってしまう不思議な乗り物だ。
アナウンスを聞いていても「自分が降りるバス停だとはまったく気がつかなかった」、降りるバス停が近づき「よし降りるぞ」と意気込んだが「なぜか自分の手が、目の前に見えているボタンに向かって伸びていかない」など。
当事者である「旅人」たちのそんな体験を紹介しながら、「もの忘れ」と「記憶障害」の違いや、バスや電車から降りられなくなるのはなぜかなど、認知症患者の脳の中でどのようなことが起きているかを解説する。
他にも、晴れた日には絶景が広がるが、ひとたび天気が崩れたら目の前が真っ白に染まり、同時に目に焼き付けたはずの絶景の記憶が跡形もなく消える「ホワイトアウト溪谷」や、歩いていると忘れがたい思い出が次々と呼び起こされ夢中で当時と同じ行動をとってしまう「アルキタイヒルズ」などの旅を例に、同じ品を何度も買ってきてしまう理由や、徘徊のメカニズムを解説するなど。
認知症の人が生きている世界を13のストーリーで体験。後半では自分が旅人になったらどのように旅をするべきかも順序だててガイドしてくれる。
人生100年時代を生きるための心強い手引書だ。
(ライツ社 2090円)