「メールヒェンラントの王子」金子ユミ著
サイレント末期からトーキー初期のハリウッド映画で一世を風靡したコメディアンコンビとして有名なローレル&ハーディ。チビで皮肉屋のローレルと太って陽気なハーディは容貌も性格も対照的な凸凹コンビだ。
本書の主役のコンビ刑事は、ローレル&ハーディを彷彿させるような対照の妙を見せてくれる。
【あらすじ】岩魚鉄太は身長190センチ近い巨漢。交番勤務を経て所轄の刑事課、そして念願の捜査1課に配属されて2年、さる事情で、都心からJR線で50分の位置にある禰原市の禰原警察署に異動した。配属先は生活安全課の防犯少年係。コンビを組む童二怜央は、身長は160センチ少しで、つるっとした白い肌に黒々とした大きな瞳で、高校生と間違えるほどの童顔だ。
配属早々、禰原小学校に「学校のとりこわしチュウシ 生徒コロす」という脅迫状が届くという事件が起こる。禰原市の左手の丘陵にはおとぎの国のような色彩鮮やかなマンション「メールヒェンラント禰原」が立ち、右手には半世紀前に建った古びた市営団地がある。およそ対照的なこの2つは、住民間の対立もあるようだ。両者の子弟が通う小学校の校舎も老朽化のため近々建て替える予定だという。
岩魚と童二が周辺の事情を探っている中、6年生の担任が不審なけがをしたり、6年生の母親が殺人事件の容疑者として逮捕されるなど不穏な空気が漂い始める。さらには、バラのお城に住む「魔女」や「王子様」と呼ばれる謎の人物が登場して、事態はますます混沌とする──。
【読みどころ】事件と並行して、異様なほど生徒たちに思い入れが強い童二の過去の謎も絡んでいく。メルヘン調の旋律である悪意が奏でられるという、変わり種の警察小説。 <石>
(光文社 792円)