「しのびよる月」逢坂剛著
逢坂剛の警察小説というと、先ごろ38年かけて完結した〈百舌〉シリーズが有名だ。警視庁公安部を舞台にしたハードな同シリーズとは対極的なのが本書を第1作とする〈御茶ノ水警察署〉シリーズだ。
【あらすじ】梢田威巡査長は、3年前に南蒲田署から御茶ノ水署生活安全課保安二係に配属となった。上司の係長は、あろうことか小学校時代の同級生の斉木斉だった。
斉木は下町の小学校で開校以来の秀才と誉れが高く、一方の梢田は全校一の悪太郎で、札付きのガキ大将。当時の梢田は斉木をいじめるのが何よりの快感だったのだが、再会した斉木は大卒の警部補で係長。高卒の梢田はその部下の平刑事。何たる運命のイタズラ。いい復讐の機会と、斉木は事あるごとに立場の違いを見せつけ、梢田の昇進試験を邪魔する。
とはいえ、2人ともなるべく面倒な事件には関わろうとせず、界隈の飲食店で見回りと称してタダ飯、タダ酒にありつくのを役得として享受するところは一致している。
ある日の午後、御茶ノ水署はいつにもなく慌ただしかった。聞けば、淡路町の古美術商が殺されたのだという。被害者は同性愛者の怪しげな集まりをしていることで有名で、斉木・梢田も前から目をつけていた男だ。自分たちが最初に目をつけていたのだからという妙な理由から、2人は安全課の事件ではないのに調べ始める。すると、昨晩保護した酔っぱらいが事件に関係しているらしいことが判明。さらに探りを入れていくと……。
【読みどころ】冒頭の「裂けた罠」ほか全6編を収録。生活安全課という大事件とは無関係の部署が、破天荒な2人組の活躍(?)によって奇妙な事件を呼び込んでいく。ユーモア満載の名シリーズ。既刊6冊。 <石>
(集英社 836円)