「姫」花村萬月著
儺島(おにやらいじま)の網元、利兵衞は嵐の晩、諏訪神社のご神木が哭(な)いているのを聞き、神事に用いる薙鎌を持って神社に向かった。ご神木は倒れて鳥居を断ち割り、石段を滑り降りて麓の集落を破壊した。
沖合に浮かぶ南蛮船に気づいた利兵衞は、集落でただ一人生き残った権藏と南蛮船に乗り込む。船内には逆十字が打ち付けられた無数の棺が並んでいた。金色の小さな棺を開けてみると、金髪の全裸の幼女が横たわっている。利兵衞は死体のように冷たい女児を抱き上げ、なんと名付けようかと思案していると、女児の口が「ひめ」と動いた。姫は10日ほどで年頃の娘となり、長い長い流浪の果てに父上と出逢ったと言った。
戦国時代を舞台に、特殊な能力をもった「姫」が支配者をあやつる、壮大な時代小説。 (光文社 2420円)