「コロナショック・ドクトリン」松尾匡著/論創社
ショック・ドクトリンというのは、2011年に出版されたジャーナリストのナオミ・クラインが著した書のタイトルだ。ショック・ドクトリンとは、惨事便乗型資本主義のことで、戦争や自然災害など、経済や社会を揺るがす大惨事に乗じて行われる過激な市場原理主義改革を意味する。新自由主義の元祖ともいわれるマーガレット・サッチャーの構造改革もフォークランド紛争の勝利による熱狂のなかで断行された。
そのショック・ドクトリンが、新型コロナの感染拡大で混乱する日本でも断行されようとしているというのが、著者の見立てだ。
ショック・ドクトリンは、いつでも政府と利権を追求するグローバル企業との共犯で行われる。日本の支配層が目指す日本の構造改革は、これまで日本社会の安定を支えてきた生産性の低い中小企業を淘汰し、そこで解放された労働力を高付加価値部門や介護などのサービス部門に振り向けることだ。つまり、中小企業という独立者を支配者たちの僕に転換するのだ。
本書を読んで痛感するのは、安倍政権、菅政権、岸田政権と進むにつれてショック・ドクトリンが強まっているということだ。例えば、安倍政権時代の持続化給付金は最大200万円だったが、菅政権がつくった事業復活支援金は、売り上げ1億円未満の中小企業が100万円と半減した。岸田政権では、中小企業向けの給付金の予定はない。それどころか、ウィズコロナに舵を切ってほとんどのコロナ支援を打ち切っている。中小企業の倒産はこれまで減ってきたが、それは政府が実施した無利子・無担保融資があったからだ。しかし、その融資も来年春から有利子化が始まる。おそらく来年半ばからは、本書が懸念する中小企業の倒産が激増し、支配者たちが描いた経済弱者の切り捨てが一気に進むのではないか。
著者は、綿密で的確な分析をする日本有数の経済学者だが、本書は今年私が読んだ本のなかで、間違いなくベストの書籍だ。新聞やテレビでは絶対に流れてこない日本の経済社会のなかで起きている真実を、本書を読むことでしっかりと見据えて欲しい。★★★(選者・森永卓郎)