コロナ禍に学ぶ
「コロナワクチン失敗の本質」宮沢孝幸、鳥集徹著
ワクチン接種も既に4回目。いつになったら終わるのか。ここから何を学ぶべきなのか。
◇
「失敗の本質」は、戦前戦中の日本軍による戦略の大失敗の原因をつきつめた有名な本の題名。それをもじった本書は、京都大学のウイルス学者とワクチン問題を追及してきたジャーナリストが対談形式でコロナ禍でのワクチン行政を鋭く批判する。
まず驚くことには巻頭からいきなり、ウイルスの専門家は多くが「ワクチンによって集団免疫が獲得できるという考えには、最初から懐疑的」という。また「ワクチンを打っても感染者が排出するウイルス量は変わらない」というデータもある。ワクチンを打って軽症化すれば、大勢が外出してどんちゃん騒ぎに走りがち。するとスーパースプレッダー(巨大拡散者)になって逆にウイルスを広めてしまう。逆効果になるリスクがあるのだ。
コロナワクチンの健康被害も、実は子宮頚がんのワクチン問題と同じ構図がある。このときも反対論を唱えた専門家がアメリカでメディアに袋叩きにされたりしたというのだ。4回目、5回目の接種をためらう読者も出てくるかも、と心配にもなる。だからこそ、きちんと読んで理解すべき中身だろう。
(宝島社 990円)
「コロナ後の未来」大野和基編
コロナ禍は文字どおりグローバル時代の疫病。これを世界の代表的な知識人7人に日本のジャーナリストがリモート取材したのが本書だ。
歴史学者のY・N・ハラリ(イスラエル)、国際政治学のI・ブレマー(アメリカ)、経営学のL・グラットン(イギリス)らがそれぞれ鋭い視点とユニークな知見を披露する。
ハラリはコロナとの戦いは重要だが、抑圧的な制限をかけすぎると民主主義を弱体化させるという。その実例が中国だ。ブレマーは中国のゼロコロナ政策は失敗すると断言し、日本は米中冷戦下でむずかしい舵取りを迫られるが、憲法改正を急いで中国との軍事競争に入るのは避けるべきという。
リモートワーク時代とはいえ、それで転居できるのは特権階級だけと見るトロント大学の経済学者R・フロリダの見方も考えさせられる。
(文藝春秋 880円)
「天皇・コロナ・ポピュリズム」筒井清忠著
おやっ? と思う書名の三題噺だが、著者は対コロナ禍の緊急事態宣言から、戦前の国家総動員法と大政翼賛の時代へと連想を働かせる。
国家総動員法は、その名称にもかかわらず議会審議は熟議にはほど遠く、陸軍省の勇み足がめだつ一方、近衛内閣は議会解散をチラつかせて、総選挙を避けたい議員心理にうったえる始末だった。
ナチスの全権委任法とよく比較されるが、日本の場合、泥縄の事なかれ主義で通した法律だけに、あとで大改正されることになった。むしろ適当なところで突破口だけ開き、あとで中身を整えるのは今も通用する日本型の手法なのだろう。
日本近代史を専門とする著者は「皆が進む方向についていきさえすれば安全」という大勢順応主義と、「世界の勝ち馬に乗れ」という風見鶏的な国際認識が日本のポピュリズムの性格と指摘している。
(筑摩書房 880円)