山本幸久(作家)
11月×日 池袋新文芸坐へ今村昌平監督「人間蒸発」(1967年)を見にいく。露口茂が本人役で登場、蒸発した男性の行方をその妻とともに追い、監督自らも出演する。一応、ドキュメンタリーなのだが虚々実々入り交じる、ひとを食った映画。
この日のお供の本はマイクル・Z・リューイン著「父親たちにまつわる疑問」(早川書房 1298円)。私立探偵アルバート・サムスンの最新作。4つの短編の連作集で、毎回関わりを持つ男が、登場の度にちがう名前を名乗るのがおかしくてたまらない。全体名人の落語を聞いているような味わい深さ。
11月×日 神保町シアターへ瀬川昌治監督「喜劇役者たち 九八とゲイブル」(1978年)を見にいく。デビューしたてのタモリと愛川欽也が共演する珍品。お供の本は「十二月の辞書」(小学館 1980円)、早瀬耕の8年振りの長編。大事な人あるいは大切な人を失い、この世に取り残された人達が繋がり、物語が進んでいく。
それにしても登場人物の大半が女性で、主人公の男性が彼女達に玩ばれているというか、いたぶられているように思えてしまうのはぼくだけかな。
11月×日 目黒シネマへ「病院で死ぬということ」(1993年)を見にいく。市川準監督作品では好きな1本。病室の場面ではカメラが動かず、逃れられぬ自らの運命に嘆き悲しむ患者の姿をじっと見つめる。主人公で医者役の岸部一徳も点景のひとつかのよう。お供の本は碧野圭著「凜として弓を引く」(講談社 770円)。女子高生の楓が人生でまったく無縁だった弓道に挑む。原田知世や富田靖子が頭にちらつくのは、ぼくがオジサンだから仕方がない。すでに続編の青雲篇(講談社 814円)も発売されています。
12月×日 どこもでかけずに家でおとなしく執筆。その合間にヘンリー・カットナー著「ロボットには尻尾がない」(竹書房 1265円)を読む。酔えば酔うほどすごい発明をしちゃう科学者とナルシストのロボットがコンビの小説が面白くないはずがないのだ。