「名画の中で働く人々」中野京子著
キリスト教では「迷える子羊」は迷いの多い弱い人間の意であり、「羊飼い」は宗教上の指導者のシンボルだ。羊飼いは聖書の「ルカ伝」では、天使に導かれてベツレヘムに行き、イエス・キリストが生まれたことを人々に広めた。ムリーリョの「羊飼いの礼拝」には、飼い葉桶に眠るイエス・キリストにひざまずく羊飼いが描かれている。(「羊飼い」)
ジョン・エヴァレット・ミレイの「休息の谷」に描かれているのは2人の修道女。左側の修道女は腕まくりをして、スコップで墓穴を掘っている。寺男もいない貧しい修道院だ。右側の修道女は髑髏の付いたロザリオを握り、両足は既に墓穴に半ば入っている。この修道女は実はこれから埋葬される死者ではないか。(「修道女」)
名画を題材に、さまざまな職業の歴史を語る。
(集英社 2090円)