「文豪の風景」高橋敏夫、田村景子監修
アニメやドラマの舞台を訪ねる「聖地巡礼」が人気だが、その元祖ともいえるのが、文学作品ゆかりの地を訪ねる「名作の旅」や「文学散歩」だ。
作家の故郷や暮らした町、作品に描かれた場所を訪ね、その風景に我が身を置いてみるなど、楽しみ方は人それぞれだろう。本書は文豪ゆかりの地を訪ね歩く文学ガイド。
2008年にリバイバルブームでベストセラーとなったプロレタリア文学の傑作「蟹工船」。その作者、小林多喜二は故郷の北海道・小樽を「街はその山腹の起伏に添って、海際を横に長く、長く延びている。そして港を抱き込んでいる両方の岬の突端まで延び切ると、今度は山を切り崩し、谷間を這い上り、街の屋並が一段々々と階段形に上へ延びて行った」と描く。
その階段形の街並みを見おろす坂の上に彼が通った小樽商業学校(現道立小樽商業高校)と小樽高等商業学校(現小樽商科大学)がある。高校時代の写真や作品に登場する「蟹工船博光丸」のモデルとなった船「博愛丸」の写真などとともに、作品を読み解き、それが生まれた背景や作家の足跡が残る風景を紹介。
井上ひさしが晩年に反戦への思いを込めて描いた戯曲「ムサシ」の舞台に選んだのは自宅があった鎌倉・源氏山の近く。
さらに自伝的青春小説「青葉繁れる」の舞台、母校の仙台一高を背景にした自身の写真や、「吉里吉里人」の名の由来ともいわれる「吉里吉里地区」がある岩手県大槌町の震災前の風景などを巡る。
以降、漂泊の詩人・萩原朔太郎の故郷・前橋や、江戸川乱歩の「探偵趣味」を刺激した東京の浅草、三島由紀夫の「潮騒」の舞台・歌島のモデルとなった三重県の神島など、36人の文豪を取り上げる。
大好きな文豪や作品がより身近に感じられ、さらに好きになるお薦め本。
(エクスナレッジ 1848円)