「大奥御用商人とその一族」畑尚子著
今年の大河は松本潤主演の「どうする家康」。家康を祖とする江戸幕府はその後260年余の長きにわたり続く。全15代の将軍の中でもっとも長く在職したのは第11代の家斉で、およそ50年の在位期間に50人の子女をもうけている。そのうち成長し婚礼を挙げた娘は12人で、ひとりの姫君につき50人ほどの女中が大奥より付けられた。その費用たるや莫大で、家斉の子だくさんは幕府の財政を逼迫させた。
一方で、この子だくさんは大奥で大量に購入される物品を納入する御用商人を潤し、江戸の経済を好景気に導いた。
本書は、家斉の時代に江戸城大奥や大名家に出入りしていた道具商・山田屋の6代当主、黒田徳雅が書き残した記録を手掛かりに、御用商人たちが大奥を舞台にどのように商売を行ったのかをひもとき、併せて大奥に奉公した女性たちの生き方にも目を向けていく。
山田屋は手代の横領事件や店の類焼など決して順風満帆とはいかなかったが、そうした困難を乗り切って店が継続できたのは、大奥などに奉公をした女性たちの力が大きかった。黒田家では、意図的に将軍家や大名家に奉公した経験のある者を妻にしていた。なぜなら彼女らは大奥などで強力なコネクションをつくり、それを商売につなげ、さらには大奥への人材斡旋者としての役目も果たしていたからだ。
本書には、妻や母としての役割だけでなく、家を支え商売を回していく、黒田家のたくましい女性たちの活躍が描かれている。徳雅の養母みのは、その強い性格で一家を差配していた女丈夫。仕えていた筆頭上﨟(じょうろう)の意を受けて京都に赴き、ついでに芝居見物や寺社巡りなど旅行を満喫する行動派。その他の女性たちも連れだって伊勢参りへ行くなど、積極的に自らの意思を行動に移している。奉公というと強いられていやいや行かされるというイメージだが、本書の女性たちには自らの運命を切り開いていく強さがうかがえる。 〈狸〉
(岩波書店 2420円)