「東電役員に13兆円の支払いを命ず!」河合弘之/海渡雄一/木村結 編著/旬報社
電力会社が料金値上げを言っていることに対して、私は「盗っ人猛々しい」という強い言葉をあえて投げかけたい。
東京電力をはじめ、電力会社は役所の悪いところと会社の悪いところを併せ持っていると常々指摘してきたが、まさに無責任の権化である。
今年の7月13日、東京地方裁判所は東電の元会長の勝俣恒久ら4人に13兆円余りの損害賠償の支払いを命ずる判決を下した。
この額に驚いた人も多いかもしれないが、それだけ重大な責任を負っているのに、彼らはまったく能天気である。土木グループが津波対策の必要性を提案しても、勝俣たちは「御前会議」で無視してきた。第5章にその様子が詳述されているが唖然とするばかりである。13兆円に驚くよりも、この御前会議のデタラメさに驚いた方がいい。
福島第1原発事故の被害は少なくすることができたのである。それをしなかった勝俣らの無責任さと被害の甚大さを考えれば、13兆円は決して多い額ではない。
また、拙著「この国の会社のDNA」(日刊現代)で、中国電力や東電を例に批判したが、供給責任を負うかわりに地域独占が認められてきた電力会社は、競争を活力剤とする資本主義の枠外にいる非常識な会社で、腐っている。先ごろ、中部電力、中国電力、九州電力の3社に、独占禁止法違反(不当な取引制限)に当たる行為があったとして公正取引委員会が課徴金納付を命ずる処分案を通知した。関西電力はそれをチクったために処分を免れる見通しだが、カルテル体質、独占体質が身についてしまっている。
大体、競争のない電力会社は広告など打つ必要がないのに、巨額の広告費を使って原発推進の大宣伝をしてきた。その費用も電気料金に上乗せしてきたのだから、「盗っ人猛々しい」と言われても仕方がないだろう。
それでもなお、料金の値上げをと言える神経はおかしい。
かつて、青森県知事選挙で原発推進候補と一時凍結派、そして原発反対派が争った。
人気抜群だったアントニオ猪木に一時凍結派が150万円で応援を頼んだ。猪木は行く気だったが、それを知った推進派のバックにいた電気事業連合会(電事連)が猪木に1億円を提示し、猪木はあわてて一時凍結派に150万円を返して、推進派の応援に入った。
これは猪木の秘書の佐藤久美子が「議員秘書、捨身の告白」(講談社)に書いている話で、訴えられたことのない事実である。電力会社をまとめる電事連は原発宣伝に使った金額をまず公表せよ。その上で値上げするかどうかを電力会社は言うべきだろう。 ★★半(選者・佐高信)