戦うウクライナ
「ウクライナ戦争」小泉悠著
年が明けてもまったく終息のきざしすら見えないウクライナの戦闘。大国ロシアを相手に一歩も引かないウクライナの覚悟。
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ロシアのウクライナ侵攻で一躍メディアに引っ張りだこになったのが本書の著者。
自分のことを「ロシア屋」にして「軍事屋」と呼ぶ。ロシア軍の情報に詳しく、軍事評論家ばりに一部で人気を得てきたからだ。本書でもプーチンが繰り出す主力兵器や、アメリカなどの西側諸国がウクライナ支援に提供する兵器についての解説が交えられ、独特の視点が生かされる。
アメリカが提供する対戦車ロケット砲「ジャベリン」。その威力のほどは驚異的で、ウクライナでは「聖ジャベリン」とネットであがめられるほどという。
他方のロシア側は自信満々に「特別軍事作戦」を挙行。これは「激しい戦闘は伴わない軍事作戦」といった意味で、ウクライナにもロシアの内通者が多数いることから絶対成功と思われたが、実際は計画倒れ。
かつては頼りなく、焦りの目立ったウクライナのゼレンスキー大統領(著者は「ゼレンシキー」と表記する)も、国民をまとめる力を発揮。プーチンの黒い野望を見事にあぶり出した。
最後に著者は日本政府がこの危機に十分学んでないと警告を発する。その通りだろう。
(筑摩書房 946円)
「ウクライナ・ショック」三好範英著
ロシアのウクライナ侵攻で最も影響を受けた他国はなんといってもヨーロッパ大陸の各国だろう。
わけてもドイツは、長く控えてきた武器供与を方針転換。もともとウクライナは携帯式対空ミサイル、ドローン迎撃用機関砲、弾薬、赤外線暗視装置などの供与をドイツに求めたが、独側は「戦争兵器管理法」を盾に承知しなかった。だが、ここにきてついに仏政府が軽戦車の供与を決めたことを受けて、ドイツもマルダー歩兵戦車を提供することとなった。
本書の著者は読売新聞の元ドイツ特派員だが、ドイツの変身ぶりには驚いたようだ。経済関係を重視したメルケル前首相の平和路線をかなぐり捨てることはまさに現代ドイツの覚悟と言えるからだ。
本書はソ連時代を含むロシアとウクライナ、ポーランド、ドイツの立ち位置の微妙な違いなどを踏まえ、現在の事態が日本にもたらす教訓を強調する。
西欧型のリベラリズムの浸透が、かえってロシアにつけこまれたとみる保守の主張が鮮明だ。
(草思社 2200円)
「ウクライナ通貨誕生」西谷公明著
かつてトヨタ自動車のロシア東欧事業を担当し、「ロシアトヨタ戦記」という好著をものした著者。しかし、以前は長銀(日本長期信用銀行)でコンサルティングを担当し、フリーとして旧ソ連事業を手がけていた。
本書はソ連解体直後から5度にわたってウクライナを訪れ、同国の経済改革管理委員会の一員として、真の独立を果たす苦労の手助けをした記録。実は1994年に既に出版されていたが、昨今のウクライナ情勢をふまえ、直近の状況への追記を加えて文庫化されたものだ。
ソ連解体後のロシアは「独立国家共同体」なる概念で旧ソ勢勢力の版図を維持しようとしたが、著者はウクライナが「ロシアそのものから自由になりたかった」とみていた。
官僚から民間まで多くの独立派エコノミストとの交流も豊富。農業と強力な軍需産業がロシアの圧力をはねのける力の源になっていたさまが活写される。
最後に著者は「ウクライナという鏡に映ったロシアの姿」が真の主題だったという。自らが滅ぶとき、国家はどうなるのか。まるで現在の衰退ニッポンのあり方を30年前に見通していたかのようだ。
(岩波書店 1232円)