竹内薫(サイエンス作家)
2月×日 電気代の請求書を見て目の玉が飛び出そうになった。燃料費高騰と円安のせいで仕方ないのだが、誰かが意地悪でもしているのかと疑いたくなる。
そこで手に取ったのがサイモン・マッカーシー=ジョーンズ著「悪意の科学」(プレシ南日子訳 インターシフト 2420円)。自分も損する恐れがあるのに、それでも相手の邪魔をしたり、仕返しをしたりするのが悪意だ。コンビニのレジでわざとゆっくり会計をする、気に入らない候補者を落選させるために対立候補に投票する、自分のボーナスが減っても同僚の仕事を失敗させたい…。
そんなことをする人がいるのかと驚くが、人口の5%から10%は、実際に悪意から行動することがあるそうだ。不公平をただすための悪意もあれば、他人より相対的に優位に立つための悪意もある。この本を読んでから、周囲がみな悪意をもとに行動しているのではないかと疑心暗鬼になった。
2月×日 最近、統計学の復習を始めた。学校で生徒にデータ分析を教えなければいけないからだ。
最近の統計学では、相関関係の背後に潜む因果関係を推論する手法が流行っているらしい。
ジューディア・パール著「因果推論の科学」(松尾豊監修 夏目大訳 文藝春秋 3740円)は、さまざまな因果関係を図解してくれていて、あまりの面白さに、600ページを3日で読了。
典型的な例だが、アイスクリームの販売数と犯罪件数は、連動して上下する。つまり、相関関係がある。では、アイスクリームを食べると人は犯罪に手を染めるのか、それとも、犯罪の後に人はアイスクリームを食べる習慣があるのか。無論、どちらでもない。背後に気温という共通の原因が隠れていて、暑くなると人はアイスクリームを食べたくなるし、不快指数が上がるせいか、犯罪も増えるのだ。
広告効果や薬の効き目など、あらゆるところに因果関係がある。ちょっと数式が出てくるが飛ばしても大丈夫です。