「CAGE 警察庁 科学警察研究所 特別捜査室」日野草著
警察庁では、捜査や警備において人工知能(AI)の活用を導入し始めている。主な内容は、自動車の車種判別、疑わしい取引の分析、不審者・不審物の抽出といったところ。それ以前にも同庁科学捜査研究所では「歩容認証」システムを導入し、既に裁判で証拠として採用されるなどの実績を上げている。本書は、近未来の科警研のAI捜査を描いた警察小説。
【あらすじ】科警研では、治安を守る人手不足を解消するための方策を考えていた。しかし、優秀な警察官を即席で育て上げることは不可能で、そこには生まれ育った素質だけではなく、経験が加味された人間独特の能力が必須となる。
そこで浮上した案が、AIと人間の融合だ。難事件が発生し、解決したときに捜査に関わった刑事の思考パターンと行動パターンをデータ化する。いわば名刑事のコピーを作って、本人のように考えて、本人のように行動するプログラムだ。
通称“籠(CAGE=ケージ)”と呼ばれるメガネ型のウエアラブル端末をかければその刑事のホログラム映像を見ることができ、イヤホンをつければ声も聞くことができる。
科警研特別捜査室の相良警部補は、当該プロジェクトが正式運用可能かどうかを試すために、ホログラム刑事を相方に難事件の捜査に向かう。相良が最初に組んだのは、かつて都内で発生し捜査が難航したアベック連続殺人を解決に導いた、当時捜査1課所属の琴平警部補(のAI)。都内で起きている若い女性を狙った連続殺人事件の捜査に当たることになったのだ。
【読みどころ】本書には5つの短編が収められているが、いずれも倒叙ミステリーの手法が使われ、読者を翻弄する。最後には更なる仕掛けが待ち受けており、ミステリーとしても楽しめる。〈石〉
(中央公論新社 770円)