「科警研のホームズ」喜多喜久著
「科警研(科学警察研究所)」と「科捜研(科学捜査研究所)」は混同しがちだが、科警研は警察庁付属研究機関で、科捜研は各都道府県の警察ごとに設置されている組織。科警研職員は国家公務員で科捜研職員は地方公務員という違いもあるが、最大の違いは「科学捜査に関する研究を行っているか否か」で、「警察を食品会社にたとえるなら、科捜研は各地にある工場、科警研はその商品開発を行う研究所」だ。
【あらすじ】本書の舞台は東京・文京区にある科警研の本郷分室。優れた洞察力とひらめきによっていくつもの事件の真相を解明し、「科警研のホームズ」と呼ばれた腕利き研究員の土屋は、あるミスで科警研を去り、現在は本郷の大学で環境問題の研究に携わっていた。科警研の出雲所長は、土屋になんとしてでも復帰してもらいたく、本郷に分室を設置し土屋を強引に室長に据えたのだ。
そこへ研修生として集められたのが、北海道警の北上純也、埼玉県警の伊達洋平、兵庫県警の安岡愛美の3人。いずれも専門が違うが科捜研の研究者だ。彼らの使命は、科警研に見切りをつけた土屋を、難事件の調査を通じて再びやる気を起こさせることだった。
最初は、ある殺害現場に残された青い絵の具の剥片。2番目は原因不明の突然死で使われた薬物の解明。3番目が一卵性双生児のどちらが犯人かの特定。そして連続殺人事件の犯人のプロファイリング。いずれも3人の研修生が地道な推理・検証によって核心に迫るのだが詰め切れず、結局は土屋に頼ることになってしまう。
【読みどころ】研修生たちの野望と矜持が、偏屈な土屋の心を動かすことができるのか。科学と人間模様がバランスよく組み合わされたユニークな警察小説。 〈石〉
(宝島社 704円)