「好きを生きる」牧野富太郎
「好きを生きる」牧野富太郎
牧野博士が生前に残した書籍から選りすぐりの文章を編んだエッセー集。
自身を「植物の愛人」あるいは「草木の精かもしれない」と語るほど、何よりも植物を愛した氏。だが、好きになった動機は実は何もないと明かし、「つまり生まれながらに好きであった」と、何年たっても薄れるどころかますます盛んになる植物への思いをまずは語る。
次の章では「学位や地位などには私は、何の執着をも感じておらぬ。ただ孜々(しし)として天性好きな植物の研究をするのが、唯一の楽しみであり、またそれが生涯の目的である」と仕事への姿勢や情熱を説く。
ほかにも、スミレやスイセンなど身近な植物の知られざる知識にはじまり、70代、80代、90代の折々につづった健康法や、月給15円の時代に13人もの子を抱え借金が2000円にも積み上がってしまった貧乏生活を送っていたころの苦労話、それでも愚痴ひとつ言わず、債権者から夫を守り研究に没頭させてくれた亡き妻への感謝、さらには一時在籍した大学での人間関係の悩みまで。
天才学者の素顔に触れる。
(興陽館 1100円)