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「はっぴいえんどの原像」サエキけんぞう、篠原章著

 かつてテクノブームで世界を牽引したYMO。メンバーの高橋幸宏、坂本龍一が相次いで亡くなり、ひとつの時代が歴史になろうとしている。

  ◇  ◇  ◇

「はっぴいえんどの原像」サエキけんぞう、篠原章著

 1970年から73年まで続いたバンド「はっぴいえんど」。YMOの前に細野晴臣が率いた多数のバンドの中で、いま最も知名度の高いのが細野、大滝詠一、松本隆、鈴木茂の4人からなるはっぴいえんどだろう。

 70年の初アルバム(通称「ゆでめん」)は当時中学生だった著者らを含め、感性豊かな若者たちのあいだで伝説的に記憶された。「日本語でロックを」というこのときの志と音楽性がローカルな土着性を志向するワールドミュージックと、グローバルで未来志向のテクノの双方を生み出す。後者の流れの代表がYMOなのだ。

 膨大な数の英米バンドの曲やサウンドを断片的にコラージュし、「加工貿易的」に作られたのが故・大滝詠一のヒット曲「君は天然色」という指摘も面白いが、マニアックなのは、はっぴいえんどの人気を広めたのが女子中学生の一群で元は伝説のロックバンド「ジャックス」の追っかけ女子たちだったというコラム。

 本書の見かけは音楽解説書だが、中身は相当にマニア度が高い。著者のサエキはミュージシャンで元歯科医。音楽評論家の篠原はサエキのいとこだそうだ。 (リットーミュージック 2200円)

「追憶の泰安洋行」長谷川博一著

「追憶の泰安洋行」長谷川博一著

「はっぴいえんど」を解散した後、大滝詠一が起こしたのが「ナイアガラ」レーベル。

 他方、細野晴臣が手がけたのがチープな東洋趣味をちりばめたトロピカル路線。アルバム「トロピカル・ダンディー」「泰安洋行」「はらいそ」の3枚だ。アメリカのポップスや土着音楽のごった煮にサンバやバイヨンなど中南米のサウンドを混ぜ、さらにナゾの東洋人イメージを垂らしこみ……と当時の細野は「ひとりワールドミュージック」状態に突入していた。

 やがて、彼はYMOの前身にあたる「イエローマジック・バンド」を結成。それは「日本語でロックをやる」という長年の志の帰結だった。

 本書は、長崎の中華街にある雑貨店の名前を借りて「ハリー細野」というナゾの日本人が世界旅行に出るというコンセプトで作られた「泰安洋行」、その魅力を解き明かしたマニアックな解説書だ。もとは「レコード・コレクターズ」に連載された「追憶の泰安洋行」。連載を通してこのアルバムのプロデューサーや関わったミュージシャン、ジャケットのデザイナー、そして細野本人にまで丁寧な取材を重ねた。

 いよいよ単行本にまとまる直前で著者は喉頭がんで逝去した。 (ミュージック・マガジン 1650円)

「象の記憶」川添象郎著

「象の記憶」川添象郎著

 YMOを世界に売り出したのは音楽プロデューサーの村井邦彦と本書の著者。曽祖父が明治の元勲・後藤象二郎。父は戦前から国際交流に尽力し、戦後はロカビリーからニューミュージック時代の有名無名が多数集ったイタリア料理店「キャンティ」を営んだ。

 そんな家の“ドラ息子”だった著者の半生記が本書だ。19歳で渡米し、ショービジネスで働く。YMOはテクノミュージックへの移行を模索した細野晴臣から持ち込まれたが、日本では誰も評価せず。来日した米プロデューサーを酔わせて聞かせて突破口を開けたという。

 YMOの米デビューとなった人気バンドの前座出演は機材輸送からスタッフまですべて日本持ち。その評判を“外圧”形式で日本に持ち帰ったのがブームのきっかけだったらしい。大麻取締法違反で前科持ちになった過去もあっさり触れられている。

 盟友の村井は先ごろ日経新聞で「私の履歴書」を連載した。それと抱き合わせにすると妙味も増すだろう。 (DU BOOKS 2530円)

【連載】本で読み解くNEWSの深層

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