堂場瞬一(作家)
5月×日 3年半ぶりに海外へ行こうと企画中。飛行機とホテルを予約して、コロナ禍以前に馴染みだったレストランやショップが営業しているかどうか調べる──そんな中、つい手に取ってしまったのがクレア・マッキントッシュの「ホステージ 人質」(小学館 1375円)、よりによってハイジャックものである。ハイジャックと誘拐は小説にし辛くなっていると言われているが……スリリングさは今年暫定1位で、おかげで海外へ飛ぶのが怖くなった。何という副作用。
5月×日 解説を頼まれていた本のゲラを読み終える。全作読んでいるシリーズものだが、シリーズ途中で解説を書くのは難しいと気づく。しかし海外ミステリーを応援するためにも、真心をこめて解説に取りかかる。
5月×日 ジーン・ハンフ・コレリッツの「盗作小説」(早川書房 2750円)を読み終え、嫌な気分になる。ネタをどう作り上げるかは、どんな作家にとっても最大の悩みで、それ故「盗作」がテーマになった作品はよく発表される。こいつは、盗むか盗まないか、主人公の心理状態がスリリングで、作家並びに作家志望者は、読めば悶絶必至だ。
5月×日 今月、誕生日がきて60歳になる。そのせいだろうか、最近は年齢の問題がバックボーンにある作品を手に取る機会が多くなった。北欧の巨匠、ヘニング・マンケル最後の作品「スウェーディッシュ・ブーツ」(東京創元社 2860円)の主人公は、引退した元医師。人生の終盤が近づいてくる中、それでも穏やかな生活とは縁遠い悩み多き毎日──しみじみと読ませる。この本のせいで、「自分の最後はどうなるのか」「最後の作品は何を書くのだろう」などと考えてしまった。でも、まだ若々しくいきたいよね。
いつもと変わらぬ海外ミステリー三昧の日々だが、ついつい仕事に結びつけてしまったりして、昔のように純粋には楽しめなくなっているのが少しだけ悲しい。