「ハマのドン」松原文枝著/集英社新書
「ハマのドン」松原文枝著/集英社新書
この本の副題は「横浜カジノ阻止をめぐる闘いの記録」だが、その運動の先頭に立ったのは「ハマのドン」こと藤木幸夫だった。90歳を過ぎてなお元気な、この魅力的なオヤジの姿は著者が監督をした映画「ハマのドン」で見ることができる。それはいま各地で上映中である。
市民の声を無視して横浜にカジノを誘致しようとした時の首相、菅義偉を向こうにまわして藤木たちは立ち上がり、戦いの場となった市長選挙に勝った。
「主権在民と言うけど、本当に在民で良かった。主権官邸じゃなかった。主権官邸を消して、主権在民を表したのがこの選挙だ」
戦いを終えて藤木はこう言ったという。
カジノ誘致について「白紙」を掲げて当選した前市長、林文子がそれを撤回した時、藤木は「顔に泥を塗られた」と言い、「塗らせた」菅への宣戦を布告して、「菅は安倍(晋三)の腰ぎんちゃく、安倍はトランプの腰ぎんちゃく」と言い切った。発する言葉に力があるのである。横浜の経済界がカジノをやりたいと言っていることについても、こう切り捨てた。
「ああ、あれは『おこぼれ組』。資本主義の末期症状になると、汗を流さないで金を儲けたい人はいっぱいいるんだから、今」
2017年5月に開かれたカジノ業者によるセミナーに集まった政治家は萩生田光一、細田博之らの自民党に加えて、国民民主党の玉木雄一郎などだった。いずれも統一教会との関わりが深い面々である。統一教会ウイルスとカジノは親和性が高いのだろう。彼らには改憲菌も入っている。
5年ほど前に初めて藤木に会うことになった時、私は名刺がわりに拙著「湛山除名」(岩波現代文庫)を持って行った。早稲田に学んだ藤木は石橋湛山に敬意を抱いているに違いないと思ったからである。ピタリだった。藤木も驚き、後日、若き日に藤木が湛山を横浜の三渓園に案内した時の写真を複製して送ってくれた。藤木は最初カジノ誘致に賛成していたが、ギャンブル依存症の深刻さを知って反対に転ずる。
「私は横浜エフエム放送もやっていて、そこでも、消費者金融が『電話下さい。すぐに30万円送ります』なんていうコマーシャルがあった。それをFMヨコハマはシャットアウトした」
こう語る藤木が政治の閉塞状況を破った。 ★★★(選者・佐高信)