石井光太(作家)
6月×日 日本に暮らす外国人の犯罪をテーマに漫画原作を書いている。毎号、漫画の末尾に外国レストランのコラムを執筆しなければならないため、最近はあちらこちらで外国料理を食べ回っている。
この日は四谷にあるスリランカ料理。店内はリゾートをイメージしたデザイン。行き帰りの電車で読んだのが、安田峰俊著「北関東『移民』アンダーグラウンド」(文藝春秋 1760円)。現在、外国人でもっとも犯罪に手を染めているのがベトナム人だ。日本のゆがんだ受け入れ制度によって、多額の借金を背負ったり、母国でもうまくやっていけなかったりする人たちが日本で窃盗をはじめとした事件を起こしている。
彼らはSNS上にベトナム人ネットワークを築き、そこで盗品を売りさばいたり、仕事の斡旋をしたり、異性と出会ったりしているという。私たちの知っている日本とは別に、ネット上にリアルと地続きのパラレルワールドが存在するのだ。
6月×日 この日は神田でアラブ地中海料理を食べる。前日に読んだのが、水谷竹秀著「ルポ 国際ロマンス詐欺」(小学館 1100円)。ネットを活用して世界各国の女性に結婚詐欺をするナイジェリア人グループに焦点を当てた作品だ。
昨年、読んだ井出智香恵著「毒の恋」(双葉社 1760円)を思い出した。有名漫画家である著者が、国際ロマンス詐欺にひっかかり、7500万円を失った顛末を描いた本だ。国際ロマンス詐欺の被害者はネット上のパラレルワールドに迷い込み、ハリウッド俳優と恋愛をしていると信じ、海外の詐欺師に多額の金を送金し続ける。
そういえば、先日大阪のタイ料理店で食事を終えた後、店長に取材をした。この店の料理はタイのどこの地方の料理かと尋ねたところ、店長は平然と答えた。
「店の看板はタイ料理でとなってますが、僕はラオス人で、料理もほとんどラオス料理です」
私たちが普段目にしている外国料理の奥にも、パラレルワールドが広がっているのかもしれない。