「緊縛」美濃村晃ほか著
「緊縛」美濃村晃ほか著
日本の緊縛は、SMという性的指向のなかのひとつのプレーではあるが、近年、海を越え「KINBAKU」として広まりつつあり、日本から招いた緊縛師による実演ライブやワークショップが世界各地で行われているという。
そうした世界的広がりとともに、緊縛をアートとしてとらえる人も増えているそうだ。
本書は、日本のSM雑誌で活躍した往年の画家の作品から、最近の若手画家らによる作品までを集めた緊縛絵の傑作集。
美濃村晃氏(1920~92年)は、戦後に編集者として関わった「奇譚クラブ」を日本初のSM専門誌に成長させた斯界の先駆者。
時代劇の登場人物のような日本髪の女性が着物を脱がされ、肌もあらわに荒縄で後ろ手に縛られ柱につながれたり、縛られた上に猿ぐつわをされて目の前の鏡で自らのあられもない姿を見せられるなどのシーンを劇画調に描いた緊縛絵をはじめ、乱れた下着から縄に縛られてゆがんだ乳房がこぼれて見える現代的な緊縛絵や、切り絵調の作品まで、さまざまなタイプの作品が残る。
幼い頃から日本画を学んできた小妻容子氏(1939~2011年)がカラーで描く緊縛絵の女性たちはさらに妖艶。女性たちの体には入れ墨が施されており、その苦悶と恍惚が入り交じる表情がSM愛好者ならずとも読者を妖しい気分にいざなう。
そして、現役画家の鏡堂みやび氏(1957年~)の作品にいたっては、写真絵のようにリアルに描かれた肉感的な女性たちの肌が汗に輝き、そのうめき声や匂いまでが伝わってきそうだ。
男性が女性を縄によって拘束する緊縛は、ひとつ間違えば暴力ととらえられてしまう可能性もあるが、大きな違いは、緊縛はひとつの性交のかたちであり、縛られる者と縛る者との愛の交歓のひとつの形だということ。
緊縛師の奈加あきら氏は、本書への寄稿で「縛る側の一方的な欲望による行為は単なる虐待となりますし、実際の緊縛の世界は二人の思いが、それこそ縄のように複雑に絡み合っているもの」だといい、「女性の苦痛と快楽の入り交じった表情こそ究極の緊縛美のひとつ」だと語る。
ほかにも、昭和を代表するSM風俗絵師・沖渉二氏(1922~2018年)や、澁澤龍彦らに高く評価された秋吉巒氏(1922~81年)による幻想絵画など故人の作品から、エロチックアートの革命家として世界中のクリエーターから敬愛される空山基氏(1947年~)や、緊縛絵では珍しい開花前の少女たちをモデルにする沙村広明氏(1970年~)、そして筋骨隆々の男性が緊縛されている姿を描く田亀源五郎氏(1964年~)によるゲイ緊縛絵などの現役画家まで、9人の作品を収録。
作品を眺めているうちに、心の奥深くで静かに扉が開き、これまで気づかなかった自らの性癖が覚醒するかも。
(河出書房新社 4620円)