「まちのねにすむ」原啓義著

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「まちのねにすむ」原啓義著

 前回の本欄の主人公が猫だったからというわけではないが、今回はネズミだ。それも、銀座をはじめ、上野、池袋、新宿、渋谷という東京を代表する繁華街に生息するネズミたちを撮影した写真集なのだ。

 ページを開いてまず驚かされるのは、多くの人が行き交う繁華街で人知れず、これほど多くのネズミたちが暮らしているという事実だろう。

 そして、疫病を持ち込んだり、電線をかじって漏電を起こすなど、負のイメージが常につきまとうネズミたちを色眼鏡なしで見てみると、こんなにも可愛らしいことに。

 街に夜のとばりがおり、あちらこちらに暗がりが出現するころ、ネズミたちが「地下世界」から地上へと姿を現す。建物のわずかな隙間から様子をうかがい、そして大胆に、お目当ての営業を終えた飲食店のゴミ袋を狙う。

 銀座らしく、ほとんど手つかずの魚の塩焼きをゲットして喜び勇んで走るネズミの写真もある。仲間と協力してカラスよけのゴミネットをこじ開けようとしているネズミたちもいる。

 何かに驚いたのか排水溝と思われる穴に飛び込んだり、歩道の段差解消のためにつけられたステップに潜んだり、垂直のアルミのサッシを移動するなど、その動きは自由自在。

 何かと隅っこでちょろちょろしているイメージがあるネズミだが、中には、銀座らしい立派なビルの前や、車が行き交う道を堂々と横切ったり、歩道で遊んでいるかのような子ネズミたちの写真まである。

 著者によると、ネズミの語源は「根栖」ともいわれ、「根」とは「根の国」や「根の堅州国」、つまり地下や黄泉の国のことを指すという。「根の国」に「栖むケモノ」が「ネズミ(根栖み)」に、そしてネズミと呼ばれるようになったそうだ。

 繁華街のネズミたちは、まるで地下から飛び出し、ひとときの自由を満喫しているかのようにも見える。

 眠らない街、新宿の歌舞伎町周辺では24時間、人通りが絶えることがない。それゆえか、ここで暮らすネズミたちは不思議なことに、夜だけでなく日中にも姿を現すという。道を歩く女性の傍らで大ジャンプを見せたり、ひっきりなしに人が出入りするコンビニの看板の下に潜んでいたり、ジャングルのように配線が絡むビルとビルの隙間など、通行人たちは気づいていないが、ネズミたちは活発に動き回っている。

 人間の目にはまるで映らず、忍者のようなネズミたちだが、都会での暮らしはそうそう安全というわけでもない。

 殺鼠剤に手を出して息絶えた姿や、天敵の野良猫やカラスにつかまり命を落とすなど、繁華街でありながら野生の世界の摂理が働いていることをカメラは冷静に見つめる。

 知られざる「東京の根に栖む」隣人たちの世界を活写した労作。

(みらいパブリッシング 1650円)

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