「秘宝館」都築響一著
「秘宝館」都築響一著
かつて観光地の「裏名所」としてにぎわっていた全国各地の秘宝館を取材した記録写真集。
若い世代には、秘宝館と聞いても、ピンとこないかもしれないが、性をテーマにした展示物を陳列した娯楽施設のことだ。
観光ブームにわいた1970年代に誕生し、全盛期には国内に20を超える秘宝館があったそうだが、現在、そのほとんどが閉館しており、その記録もほとんど残されていない。
本書は、「もうすぐなくなることがわかっている、こんな文化のありようを1カ所でも多く記録しておきたい」との焦燥感に突き動かされた著者が、取材して記録した11施設を紹介する。
秘宝館の先駆けは、1971年、三重県伊勢に開館した「元祖国際秘宝館」だ。
その後、同館の人気を受け、全国各地に同様の施設が続々と開館するが、「世界数十カ国から多年の歳月と十数億の巨費を投じて収集された」貴重なコレクションを展示する同館は、後続を圧倒する規模と内容だったという。
白鳥に身を変えたゼウスと交わるスパルタ王の妻レダや、アメリカのセックスシンボル女優ラクエル・ウェルチ、レズビアンを見つめるモナリザ、和洋さまざまなSM拷問シーンなどのマネキン展示をはじめ、巨大な陽物陰物をご神体に祭った、その名もずばり「陰部神社」や、動物たちの交尾シーン、ポルノ映画の上映など、急ぎ足で巡っても2時間近くもかかるほど盛りだくさん。
最後には実物の馬の「交尾ショー」まであったという(そのために数頭の馬を飼育していたそうだ)。
ほかにも、「女体椅子」や「お尻滑り台」などの現代美術のようなオブジェや、大人の玩具や性病の恐ろしさを啓蒙する展示、妊娠出産の経過を解説した「保健衛生コーナー」などもあり、創業者・松野正人氏の脳内エロ空間をそのまま具現化したような展示物だったという。
開館当初は閑散としていたものの、口コミで広がり、大盛況に気をよくした松野氏は、1981年には三重県鳥羽と山梨県石和にも秘宝館をオープン。
「元祖国際秘宝館・SF未来館」と名付けた鳥羽の施設は、地球滅亡の危機に直面した人類が、宇宙基地提督の命令で生き残りをかけた生殖作戦を展開するというドラマ仕立ての「SFエロ・ワールド」を展示。しかし、いずれも2000年代に次々と閉館。SF未来館の閉館を知った著者は、そのSFインスタレーション・アートともいうべき展示物の消滅を危惧、購入して今も貸倉庫で保管しているという。
ほかにも、全22景の一大セックスジオラマが展示されていた佐賀県の「嬉野武雄観光秘宝館」や、北海道・札幌の奥座敷、定山渓の「北海道秘宝館」など。忘れ去られようとしている日本の裏文化遺産の在りし日の姿をとどめる貴重な一冊だ。
(青幻舎 2530円)