「残酷すぎる幸せとお金の経済学」佐藤一磨氏
「残酷すぎる幸せとお金の経済学」佐藤一磨氏
「人生の中で幸福度が最も低いのはいつでしょうか。答えは48.3歳。これは、米国のダートマス大学の分析で、日本においても49~50歳が最低なんです。若いときは希望にあふれていますが、中年で理想と現実のギャップに苦しむ、そして、高齢になると現実を受け入れられるようになる。ましてや中年は仕事も忙しく、育児や介護の負担もあるので当然です。幸福度と年齢の関係を図にするときれいにU字形になります」
出世や結婚、家族ガチャまで、曖昧模糊な「幸せ」という概念の決定要因を、世界の研究と著者の独自調査から明らかにする本書。大規模なアンケート調査を行い、その結果を計量経済学の手法で数値化する「幸福の経済学」から導き出されたのは、面白くも意外な幸せの事実だった。
「明らかにしたいのは、“幸せの正体″です。たとえば、人生のどん底に関する先ほどの結果を、所得でグループ分けして分析すると、高所得者層だけグラフの形が右肩上がりの直線。直線ということは、高所得者は『中年の危機』を味わわない。地獄の沙汰も金次第、ということなんですね」
「残酷すぎる」という本書のタイトルにもうなずける。しかし、「お金がすべて」ということではないらしい。
「私は、日本人の男女合計約2万7000人を対象に、管理職への昇進と幸福度の関係を分析しました。その結果、『管理職に昇進しても幸福度は上昇しない』。つまり、お金だけでは幸せになれないと分かったのです。また、男女ともに『昇進3年後までに健康状態が悪化している』『妻が管理職である夫の幸福度は低い』ことも示されました。そのほか、多くの研究から共通して言えるのは、『お金』『健康』『パートナー』の3つのバランスが幸せを左右しているということです」
幸せへの道のりは細く険しいが、せめて「不幸せ」は回避したいものである。
「最も避けなければいけないのは、熟年離婚です。特に、男性の場合は悲惨です。男女ともに離婚後はメンタルヘルスが悪化するのですが、女性は1年で回復。一方で、男性は回復までに5年かかるんです。離婚を、不満解消の出口戦略として前々から準備しているのが妻。男性は寝耳に水なので大ショック。離婚後、スポーツや趣味などの活動が停滞して、孤立してしまう男性が多いんです」
まさに「男はつらいよ」と言わざるを得ない状況だ。
「夫婦円満の秘訣は、オーストラリアの研究者が2012年に発表した論文に答えがあります。夫婦間で『どちらか一方』のみ幸福度が低いと離婚率が上昇すると分析されたのですが、その『どちらか一方』とは『妻』。逆を返せば、『相対的に妻が幸せな家庭』ほど離婚しにくい。『妻が夫を尻に敷いている』状況が理想的なんです。夫婦生活を長続きさせるための合理的な選択と捉えられます。かくいう私も、月曜と火曜に5コマずつ講義をまとめて、それ以外の日は育児と家事に参加しています。尻に敷かれていますね(笑)」
ほかにも、「長男ほど学歴も年収も高い」「日本の男性の幸福度が低いわけ」「弟がいる長女は年収が低い」など、7ジャンルにおいて衝撃の事実を紹介。
(プレジデント社 1760円)
▽佐藤一磨(さとう・かずま) 拓殖大学政経学部教授。1982年生まれ。慶応義塾大学商学部卒業、同大学院商学研究科後期博士課程単位取得退学。博士(商学)。2016年から拓殖大学政経学部准教授に就任し、23年から教授。専門は労働経済学・家族の経済学・幸福の経済学。