ジェンダーの壁
「ジェンダー格差」牧野百恵著
生物学的な性とは違う「社会的な性別役割」がジェンダー。若者世代にはなじみの概念だ。
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「ジェンダー格差」牧野百恵著
当初は「失われた10年」だったものが20年になり、30年になったニッポン。近ごろのインフレ基調も、自助努力の影響というよりコロナ明けと外圧の反映だ。本書はこの停滞の背景に「ジェンダー格差」があることを実証経済学で観察するという注目作だ。
では、どう実証するのか。本書は冒頭で「世界経済フォーラム」が発表した「ジェンダーギャップ指数」を取り上げる。昨年の調査では対象146カ国のうち、日本は125位。2006年に第1回が公表されて以来最低。G7どころか東アジア太平洋諸国19カ国でも最低という不名誉だ。
たとえば教育分野では日本の男女差は一見ないように見えるものの、大学進学率では明らかに男女格差があり、OECD(経済協力開発機構)加盟国で4大卒以上の割合が男性優位なのは、なんと日本だけだという。
また、組織のリーダーには男性のほうが向いていると答えた日本の女性は全体の2割。出産・育児休暇を男性が取るべきではないと答えた女性も1割いる。つまり、格差があっても当然とする女性たちが一定数いるわけだ。
著者はこれを「むしろ格差があることを好都合と思っている女性も少なくないかも」という。意外に多いといわれる専業主婦願望も、実は日本のジェンダー音痴(?)の反映なのかも。
序章からして衝撃だらけの新書である。 (中央公論新社 990円)
「おしゃべりから始める私たちのジェンダー入門」清田隆之著
「おしゃべりから始める私たちのジェンダー入門」清田隆之著
早稲田大学在学中に「桃山商事」を立ち上げた著者。学生起業家? いや実は「恋バナ収集ユニット」の代表。当時、クラスメートの女子から恋の悩みを聞く機会が多く、それがきっかけで「複数の男子で女友達の恋バナに耳を傾ける」サークルをつくったところ、どんどん評判になって、はや20年以上というのだ。
いまでは大手新聞にコラム連載を持つまでになったが、同時にこの20年の間に性やジェンダーに関する常識も大きく変化した。少なくとも若者の間では。
だが、それがわかってないのはオジサンオバサン世代。実は、著者も既に40代で双子の父でもある。
というわけで、本書は同世代(以上)に向けた“いまどきのジェンダー常識”入門書でもあるだろう。 (朝日出版社 1925円)
「フェミニスト男子の育て方」ボビー・ウェグナー著、上田勢子訳
「フェミニスト男子の育て方」ボビー・ウェグナー著、上田勢子訳
有名人の性的スキャンダルが相次ぐアメリカ。そのさなか、著者は6歳の息子にセクハラはいけないことだと教える。すると息子いわく、「え?それって法律違反なの?トランプ大統領もやったんじゃないの?」。
臨床心理学の専門家で米ハーバード大の教育大学院でも非常勤講師を務める著者は、そこでハタと、こういう時代に男の子を育てるにはどうすべきか、と思ったらしい。
まずは、醜悪なセクハラ事件のニュースでも子どもに隠さない。性についてオープンに話すが、子どもの年齢や発達段階に十分気をつける。
著者は男の子を「アライ」に育てるという。「アライ」は「同盟」の意味だが、本書は「疎外された集団への抑圧をなくそうと努力する人」を意味する。つまり、女性だけでなく弱者と同じ立場に立つ目線を持つということだ。
ちなみに著者の名は「ボビー」だが、性別は女性。現代のアメリカではボビーは小さな男の子か女性の愛称だ。 (明石書店 2200円)