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「ルポ 出稼ぎ日本人風俗嬢」松岡かすみ著

 働き方改革といわれながら世は旧態依然。しかし、ちょっと視点を変えると意外な働き方が見えてくる。

「ルポ 出稼ぎ日本人風俗嬢」松岡かすみ著

 いまやGDPでもドイツに抜かれて4位転落のニッポン。インバウンド観光客は多数いても、意欲と才能にあふれた働き手は来ないといわれる。そんな国に見切りをつけてエンジニアやスポーツ選手は続々と海を渡る。だが、風俗嬢もまたパスポート片手に海外に雄飛する時代になったのだ、というのが本書のテーマ。これが実に面白い。

 ライトな性風俗として人気の「M性感」嬢のマリエさん。たまたま始めたブログとツイッターで客がつき、友達と出かけた海外旅行で外国の同業者と知り合ったことから世界が変わった。夏の間だけ外国で働いてみてノウハウを覚え、英語のホームページも開設しながら次第に客筋を開拓。いまでは欧米とアジア3カ国で固定客40人。米・独・香港・シンガポールなどでは客単価は日本の5倍。マリエさんの場合、1回の海外ツアーで5万ドル(約730万円)を軽く稼ぐまでになったという。

 興味深いのは海外富裕層の上客を得るには「自分への自信と、自分の意見や考えをしっかり持っていることが大事」という自己ブランディングの極意。日本でいまも人気の「ぶりっ子」も、マリエさんにいわせると「世界的に見ても異常だな」と日本文化論にまで発展する。

 著者は元「週刊朝日」の女性記者。こういう視点の風俗取材は女性のほうが向いているかも、と思わされる好著だ。 (朝日新聞出版 957円)

「なぜ『若手を育てる』のは今、こんなに難しいのか」古屋星斗著

「なぜ『若手を育てる』のは今、こんなに難しいのか」古屋星斗著

 最近、ネットでやけに目につくのが転職サイトのCM。若いサラリーマンが「自分の成長を感じられる職場に」とつぶやくアレだ。ところがその一方、現実の企業では課長昇進を嫌がる若手が出没中という。

 要はユルい職場は嫌、きつい職場も嫌、でも責任が重いのはもっと嫌というわけだ。じゃあ一体どうすりゃいいんだ! と言いたくなるという向きは、本書の書名にぐっとくるだろう。

 著者は経産省の官僚を経てリクルート系シンクタンクに転職した働き方のプロ。それだけにデータと現場のインタビューなどの両面から実態をつかんでいる。

 たとえば残業や有休など労働環境が改善しているのはデータで明らかだが、離職率も下がらない。つまりユルくなったのに満足しないわけだが、これは「会社に不満はないけど不安がある」体という。なるほど。自分は会社の外でも通用する人材なのか、自信が持てないということだ。それが「成長を実感」という話につながるのだ。

 いまや、パワハラ対策で上司も研修などを受けるのが普通。すると「上司が言おうとしたことをぐっと我慢している瞬間がわかるんですよね。それがちょっといたたまれなくて」という若手の声も紹介されている。 (日経BPマーケティング 1760円)

「働き方全史」ジェイムス・スーズマン著、渡会圭子訳

「働き方全史」ジェイムス・スーズマン著、渡会圭子訳

 人間が働くのはあたりまえ、と思われているが、実は歴史の中で人間の労働は大きく変わってきた。著者はイギリスの人類学者で南部アフリカの狩猟採集民の調査を長年かけて行ってきた。

 著者によると狩猟採集の労働はホモ・サピエンスが出現してからの30万年にわたって最も長続きした経済だ。しかし1万年ほど前に農耕革命が起こって以来、人類は「欠乏」にうながされて無理にでも働くようになったのだという。要は労働は人間の本性というわけではないということだ。

 農業でも工業でも機械を使って生産を行い、事務機を使ってオフィスワークをする。そういうのがあたりまえと思っているのが現代人だが、実はそう思い込んでいるだけで、思想はないのではないか。昔ながらの「足るを知る」精神は狩猟採集民の暮らしで実践されているのだ。

 映画化された大ヒット漫画の「ゴールデンカムイ」にも出てくるアイヌの知恵にも一脈通じるものがある。 (東洋経済新報社 3080円)

【連載】本で読み解くNEWSの深層

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