「<標本>の発見」国立科学博物館編著
「<標本>の発見」国立科学博物館編著
国立科学博物館では、現生生物だけでも約450万点もの標本を保有しているという。
その膨大なコレクションから、日本の生物多様性の変遷と現状を把握し、種の保存に貢献するものを厳選して紹介するビジュアルブック。
かつて日本に生息していたが、絶滅判定を受けた「絶滅種」は110種。まずは、その幻となってしまった生物たちの標本を取り上げる。
その代表格がニホンオオカミだろう。日本の生態系の頂点に君臨していたニホンオオカミは、明治維新の頃にはその数が激減。1905年を最後に記録がないという。
紹介されるのは、いずれも幕末から明治初年に採集された剥製と骨格標本。剥製は、時間の経過を感じさせぬほど毛並みもふさふさで、往時の姿を彷彿とさせる。
絶滅後、中国から譲られた個体で野生復帰を果たしたトキ。1980年代、日本のトキとして最後に残った5羽のなかの1羽「シロ」は、卵詰まりで死亡したため、その剥製は繁殖期特有の婚姻色が残る貴重な標本だ。
また、宿主の日本のトキとともに絶滅したダニの仲間「トキウモウダニ」の標本もあり、共生について考えさせられる。
最後に採集されてから約100年後の2020年に再発見された「ホソバノキミズ」という植物など、一度は絶滅判定されながら、再発見によって復活を遂げた、植物や魚、昆虫の標本もある。
以降、絶滅寸前種や、人の営みによって生息状況が大きく変わってしまった生物、また絶滅が危ぶまれる植物を生きたまま守るリビングコレクションとそれを利用した研究、さらにDNA解析など標本の新しい活用法まで。
それぞれの標本とその生物たちの物語に引き込まれ、標本に対するイメージが一新される。 (国書刊行会 2970円)