「50代で一足遅れてフェミニズムを知った私がひとりで安心して暮らしていくために考えた身近な政治のこと」和田靜香著

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「50代で一足遅れてフェミニズムを知った私がひとりで安心して暮らしていくために考えた身近な政治のこと」和田靜香著

 フリーランスのライターの著者は2つのバイトを掛け持ちしながら何とか生計を立てていたが、コロナ禍前後、バイトを相次いでクビになる。この生きづらさは自分のせいではなく、日本社会の構造に原因がある。それを変えていくために自分たち市民こそ政治へ参加していこう。そう思い立った著者は「時給はいつも最低賃金、これって私のせいですか? 国会議員に聞いてみた。」を書き、話題となる。

 57歳になった著者は思う。年金問題のほか、単身の高齢女性にはいくつもの大きな壁が立ち塞がっている。そこを変えるには女性の政治家が増えなくてはいけない。だが、現実は衆議院で最も女性比率が高いときで11.3%(参議院は25.8%)。今何より必要なのはパリテ(男女同数議会)だ。

 調べてみると、20年にわたってパリテを実現している自治体があった。神奈川県中郡大磯町。なぜそれが可能だったのかがわかれば、日本全体がパリテ実現に向けて一歩近づけるかもしれない。著者はその答えを求めるべく大磯町へ通い詰め、さまざまな人たちの声を聞き取っていく。

 2003年、大磯町町議会選挙で男女9人ずつが当選し日本初のパリテを達成。以後歴代6人の女性議長が誕生している。同議会にはヤジやハラスメントは見当たらず、新人議員が委員会の委員長に抜擢されたり、自民党の議長の際に副議長に共産党の女性議員が就くなど、国政では見ることのない自由な気風がある。「地方自治は民主主義の最良の学校であり、その成功の最良の保証人である」という言葉が、文字通り同議会には生きていることがわかる。

 大磯という地域の歴史や地方自治について何の知識もなかった著者は取材を通して学んでいく。読者もまた、読み進めていくうちに国政に絶望する前に、身近な地方自治体から政治を変える活動ができるのだということを学んでいく。 〈狸〉

(左右社 1980円)

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