「セミコロン かくも控えめであまりにもやっかいな句読点」セシリア・ワトソン著、萩澤大輝・倉林秀男訳
「セミコロン かくも控えめであまりにもやっかいな句読点」セシリア・ワトソン著、萩澤大輝・倉林秀男訳
現在ではセミコロン(;)は「ピリオドよりは軽く、コンマより重い句読点」とされるが、元々は15世紀末にイタリアで生まれ、コンマ(,)とコロン(‥)の中間ほどの休止を示す記号だったという。この日本語にはない句読点は、翻訳する際には頭を悩ませることが多いといわれるが、本書を読むと、本場の英語圏においてもなかなかにやっかいな存在であることがわかる。
19世紀、セミコロンは大流行し、相当の数のコロン及びコンマがセミコロンにのみ込まれるという現象が生じ、その意味も休止の記号から「文の区切りを明確化する手段」へと変貌を遂げ、その用法も多様化していく。
しかし、その曖昧な用法が問題を引き起こすことも。米マサチューセッツ州には夜11時から翌朝6時まで酒類の販売を認めないという法令があったが、その文の先にセミコロンがあり、除外規定が記されていた。これにより禁止命令を受けたバーの店主は反論する。このセミコロンは本来はコンマを意図したもので、除外規定は全体に及びその規定に当たる自分の店は酒を売ることができると。結局裁判所は句読点は無視をするとして訴えを却下。
こうした例はセミコロンに限らない。英国の外交官ケイスメントは、反逆法の条文のコンマの位置の解釈によっては死刑を免れたはずで、「コンマに首を吊るされた」と評された。あるいは終身刑の勧告が被告2人に及ぶのかそれとも片方だけなのかがコンマの位置によって意見が分かれ、結局1人は死刑に処された。
そのほか、チャンドラーやアーヴィン・ウェルシュなどセミコロンを愛用した作家や、「白鯨」の全21万語のうち4000回もセミコロンを使っているメルヴィルの事例も紹介されている。
普段あまり気にとめることのないセミコロン(句読点)だが、本書は豊富な文例とともに、その奥深さを教えてくれる。 〈狸〉
(左右社 2420円)