「ANIMATION WORKS COLLECTION」芸術新聞社編著
「ANIMATION WORKS COLLECTION」芸術新聞社編著
気鋭のアニメーション作家16人によるアンソロジー作品集。ミュージックビデオやSNS、短編映画など、さまざまな媒体で発表された各自の作品が収録されている。
書籍というメディアでは、音楽も流れてこないし、もちろん画面も動かない。動画が前提のアニメーション作品をあえて書籍という紙媒体で紹介するのは、1分あたり約500枚のコマが流れる動画では一瞬で通り過ぎてしまう「場面」と、じっくりと向き合えるからだ。登場人物が見せる一瞬の表情から、その感情を読み取り、読者なりの物語の続きを紡ぎだしたり、背景に描き込まれた細部を観察したり、視点が変わるだけで、作品世界により深く没入できる。クリエーターたちが丁寧に描き込んだ、そんな作品世界をより堪能してもらおうと企画されたのが本書だ。
まず巻頭のスペシャル企画として、人気クリエーター・Waboku氏にアート連作「EDEN」について語ってもらうインタビューを収録。
連作の1作目「1112F」に登場する、大きな成功を遂げたものだけが住む巨大なタワーマンションからの風景や、EDENの街並みや雲海を見下ろしながら回遊するバスタブ(いままさに資産家の娘が入浴中)、そして地上階のランドマーク的なスーパーマーケットなどをじっくりと味わうことができる。
さらに廃室となった危険な区画を移民向けに貸し出している「B-893F」や、EDENのための研究施設で馬車馬のように働く人々が登場する「2F」など、上層階1112Fから降下した中産~労働者階級の人々の日常を描いた作品まで。各シーンやバスタブなど登場するアイテムの細部について作者に語ってもらいながら、作品のテーマや見どころを聞き出す。
続いて登場するのは、映画「ワンピース」の劇中で流れるAdo「私は最強(ウタ from ONE PIECE FILM RED)」などnina氏が手掛けるMV作品。ポップなカラーで描かれるその作品からは、聞こえないはずの音楽が聞こえてくるとともに、描かれた少女が放つエモーショナルな光に包まれ、音楽と同化するような感覚に陥る。
読者は、アニメーション作家が作画一枚一枚にかける熱量を実感することだろう。
ほかにも、実写の中にシンプルな線で描かれたキャラクターが登場する大鳥氏のMV・ヨルシカ「言って。」や、主人公の少女や女性の微妙な表情の変化がよく分かるちゅーたな氏のオリジナルビデオの連作を収録。そして、登場する豚や魚のキャラクターが、ディズニーのレトロ作品のテイストを感じさせる若林萌氏のオリジナルフィルム「サカナ島胃袋三腸目」など、それぞれ個性豊かな作品が並ぶ。
表現方法も16人16様で、アニメーションファンならずとも、その確かな才能に触れることができ、充実の読書体験となることだろう。
(芸術新聞社 2860円)