マンスプレイニング
「男の子をダメな大人にしないために、親のぼくができること」アーロン・グーヴェイア著 上田勢子訳
「オトコが偉そうに上からするお説教」、これが話題の新語「マンスプレイニング」だ。
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「男の子をダメな大人にしないために、親のぼくができること」アーロン・グーヴェイア著 上田勢子訳
そもそもナゼ男は女に向かって偉そうな態度をとってしまうのか。本書の著者はこれを「有害な男らしさ」のせいだという。アメリカで「#ミートゥー」運動が話題になったのが2017年。その2年後、カミソリのジレット社が「有害な男らしさ」を批判するテレビCMで反響を呼んだ。同社は元々、「最高の品を男の手に」というのが伝統のキャッチフレーズ。これを逆手にとり、ユーモア交じりながらも企業が自己批判をしたわけだ。
著者は多数のメディアに時評を書くコラムニストで、父親の育児参加を唱えるウェブサイトの主宰者。しかし、かつては幼い息子に妻がピンクの靴下をはかせただけで怒ったほどだという。その後は「男はかくあるべし」という思い込みを周囲から刷り込まれて育ったことに気づく。
きっかけは幼い息子が派手なマニキュアを爪に塗って幼稚園に行ったこと。そこでほかの園児たちのいじめに遭ったことから、著者はほかの子どもたちよりも「その子たちの親にムカついた」。そんな経験を重ねて、無意識の男らしさから生まれるマンスプレイニングの世界から脱した。
日米で程度の差こそあれ、男の思い込みは万国共通かも。
(平凡社 2860円)
「男性の繊細で気高くてやさしい『お気持ち』を傷つけずに女性がひっそりと成功する方法」サラ・クーパー著 渡辺由佳里訳
「男性の繊細で気高くてやさしい『お気持ち』を傷つけずに女性がひっそりと成功する方法」サラ・クーパー著 渡辺由佳里訳
オトコにとって盲点なのはマンスプレイニングがたいてい無自覚なこと。
昭和のオヤジが援交ギャルに説教するのは論外だが、平成生まれでも親切心のつもりが偉そうに響くのはよくある話だ。
本書はこれを逆手にとった容赦ないオトコ批判。
「男性の自尊心はいかなる犠牲を払ってでも守られなければならない」として、職場で男と話すときの声の大きさや高さからメールの出し方、返し方、上司やリーダーになったときの心得などなど、絶妙のユーモアと皮肉に包まれた、毒ダンゴのごとき男性賛美で迫る。
なにしろ部下の男のミスを見つけたら「ごめんなさい、この数字正しいのかしら。私、数学が苦手だから100%確信してるわけじゃないのだけれど。もう一度確認してくれる?」と言いましょうね、というのだ。
著者は米ヤフーやグーグルに勤めながらトランプを揶揄するユーチューブで大人気を博し、独立してコメディアンになったという異才。
鈍感な男の胸にもグサリと刺さる皮肉が満載。
(亜紀書房 2178円)
「フェミニスト 紫式部の生活と意見~現代用語で読み解く『源氏物語』~」奥山景布子著
「フェミニスト 紫式部の生活と意見~現代用語で読み解く『源氏物語』~」奥山景布子著
今年のNHK大河ドラマ「光る君へ」は初回視聴率が過去最低で不名誉な話題になったが、本書は文学博士号を持つ作家による「源氏物語」論。
まず注目するのは、平安時代は物語の地位が低かったこと。さらに紫式部は漢籍の素養豊かだったが、当時、漢籍を読む女は「御幸ひは少なき」といわれるほど。しかし彼女が書いた源氏、特に「雨夜の品定め」などは「ホモソーシャル」な男だけの「ミソジニー」(女性嫌悪)の典型と喝破する。
一人になると親切な男が、集団になると差別的になるのだ。
また秋好中宮と玉鬘はともに源氏が養女とした女性だが、彼女らに示すのは与謝野晶子いわく「変態的な理屈」による劣情。そして幼いころから育てた紫の上には、おっさん気質丸出しの「上から目線」によるマンスプレイニングの数々。あげく過去の女たちのことをあれこれ「評価」するのを聞かされた紫の上は病に伏してしまうのだ。
日本文学史を代表する名作をフェミニズムで読み解く。
(集英社 1980円)