泉麻人(コラムニスト)
6月×日 小林照幸著「死の貝」(新潮社 737円)を読了。〈Wikipedia3大文学 幻のノンフィクション待望の文庫化!〉と帯に入っているけれど(他の2つは新田次郎の「八甲田山死の彷徨」と吉村昭の「羆嵐」だという)、それはともかく、この本は1998年の単行本時に読んでハマった1冊だったが、うっかり古本屋に出してしまったのか、いつしか本棚から消え、その後ネットの古本価格も高値を付けて、まさに僕も文庫化を待望していた。
川貝のミヤイリガイを中間宿主にしてタチの悪い風土病を引きおこす日本住血吸虫の話を知ったのは、小学5、6年生の頃に少年サンデーで読んだ白土三平の「カムイ外伝」だったはずだ。甲斐の野武士が出てくる短編だったと思うが、そんな山梨の甲府盆地をはじめとする水田地帯に昭和前期まで蔓延した日本住血吸虫症の歴史が科学的かつ文学的に描かれている。ミステリー小説を思わせる筆致、研究の献体となる村人や猫のエピソードに引きこまれる。
6月×日 銀座線を田原町で降りて、蔵前側の寿町のあたりを散策、最近はこういう“裏浅草”っぽいエリアにもシャレたカフェなんかがぽつぽつと出現して、情報通の外国人観光客が玄関先に溜まっている所もある。一角のギャラリー風佇まいの書店(Readin' Writin')で行われている「草森紳一展」に立ち寄った。“元祖サブカル評論家”なんてキャッチが付けられていたが、広告からマンガ、建築、アート……1960年代から守備範囲の広い雑学コラムを書いていた人で、展示本の棚にあった「悪のりドンファン」(フィルムアート社 2090円)は、広告研究サークルに入っていた大学生の頃に愛読した1冊である。
「秋場所の大相撲で、貴ノ花が優勝するのではないかと、途中から占いを立ててみたのは、テレビのCMのせいであったかもしれぬ」
昭和50年(1975年)秋場所の貴ノ花(初代)の活躍と出演CMとの関係性を論じた冒頭の1文を、フンフン頷きながらしばし立ち読みした。