「風土の家 那覇の街角」比嘉慂著
「風土の家 那覇の街角」比嘉慂著
沖縄で生まれ育ち、沖縄を舞台にした作品を描き続ける漫画家がペンをカメラに持ち替え編んだ写真集。
仕事の合間、さまざまな思いを胸に街をさまよい歩く中で出会った、レンズを構えずにはいられない「たたずまいが味わい深い」民家が被写体だ。
それらの多くは1960年代から80年代に建てられた家と思われるという。
沖縄の家屋というと、ドラマで見たようなサンゴや石灰岩を積んだ石垣で囲まれ、しっくいで固めた赤瓦をのせた低い屋根と日差しを遮る長い軒が特徴的な開放的な木造建築が思い浮かぶ。
しかし、ページを開いて真っ先に目に飛び込んでくるのは、鉄筋コンクリート造りの重厚な家だ。
赤瓦の木造の家も、この鉄筋コンクリート造りの家も、台風に耐え、夏の暑さをしのぐために到達した沖縄の人びとの知恵なのだろう。
コンクリート造りといっても、その外観は個性的で沖縄らしさに満ちている。南国らしいパステルカラーの外壁の家があるかと思えば、駐車場の入り口に魔よけのシーサーが鎮座している家もある。
中には風対策なのだろう、窓まで隙間の空いたブロックで覆った幾何学的なイメージの家や、有名設計士の手によるものなのだろうか、民家とは思えないようなデザインの家もある。
もちろん、赤瓦の昔ながらの家も健在だ。
新築なのだろうか、瓦を固めたしっくいがまだ新しくクリーム色に輝き、遠くに見える高層マンションとの対比が沖縄の今を伝える。
赤瓦とコンクリート造りがコラボレーションした家もある。
街のところどころには、これまでの台風によくぞ耐えてきたと思わせるトタン屋根の年季の入った家々もある。
沖縄の家のもうひとつの特徴といえば、本土ではなかなか見ることがないさまざまな意匠の「花ブロック」だ。屋根はトタン葺きながら、塀は見たこともない特別な花ブロックで飾られた家もある。
さらに、花ブロックを取り入れた現代的な集合住宅や、アメリカ文化の影響だろうか平屋根の家々にもカメラは向けられる。
そしてページの合間には、戦火にも耐えたのだろう、建物の合間に残る古い沖縄の特徴的なお墓などの写真も挟み込まれる。
住人たちの姿はなく、写真にはただ民家が写っているのだが、著者はその「歳月を重ねた家のかもしだす風情」に、「真っ当に暮らしたいと願う人々の誠実な温もりが感じられ、この不条理な沖縄にあっても芯はぶれない、変わらない、まさに風土の心を私は見ているのだと立ち尽くす」という。
広島や長崎と並んで、戦争の傷痕が最も深かった沖縄だが、街角の風景からそれを思い出すことは難しい。しかし、その歴史と現在の状況を知っていれば、人々が暮らすその何げない風景が多くのものを読者に語りかけてくるはずだ。
79年目の夏がやってくる。
(ボーダーインク 5170円)