ほんまる(神保町)直木賞作家今村翔吾氏経営のシェア型書店
靖国通りの一筋南。いつもは静かなさくら通りに、あら? 大勢が吸い込まれていく。「すみません、(この取材が)凪良ゆう先生の一日店長の日と重なってしまって」と今村翔吾事務所秘書室長の福永千夏さんがおっしゃるが、「いやいや、大繁盛、素晴らしいです」と私。
今年4月にオープンした、直木賞作家・今村翔吾さん経営のシェア型書店だ。1階と地階に計16坪。約350の棚を“小さな本屋さん”のごとく「棚主」に開放(有料)。目下8割が詰まっている。
今村さんは、2022年5月から4カ月間、全国271カ所の本屋を回った。「雑貨を売るばかりか、トルコ料理併設の本屋もあり、分かったのは、書店単体で成り立たない時代がきていること。言い換えると書店が、本以外の高利益率の商品に侵略されているわけです」と福永さん。そこで、いわく「本の親戚」の形であるシェア型書店を調査。クリエーティブディレクター佐藤可士和さんの協力を得て、神保町に出店──。
約350の棚主は個人からIT企業や自治体まで多彩!
そんな経緯を(店内混雑のため)店の外で聞いていたところ、なんと。サプライズで今村さん本人が現れた。ラッキー! しかも、この大作家は「取材? ありがとうございます」と腰が低い。オープン4カ月の感想を教えてください。
「本好きの人だけでなく、塗装会社、紙の会社、IT企業、自治体など法人から棚主の申し込みをずいぶんいただいたのが想定外でしたね。出版文化とつながろうという思いを受け取りました」
人熱がマシになった隙に店内へ。わ、ほんとだ。「新生紙パルプ商事株式会社」が「印刷・紙加工の大百科」、「株式会社塗和」が「空白小説」、ソフトウエア開発会社を親元とする会社が「サイボウズ式ブックス」の屋号でブレイディみかこ「他者の靴を履く」を推している。評論社、東京書籍、双葉社など自社本を置く出版社も多数。個人棚も多彩で、私など「アクティブ・シニア革命」との棚が気になって仕方ない。
福永さんが「本、まちまちなのに、統一感があるでしょう?」と。棚とインデックスに高級木材・栂が使われているからかな。センスいいな。いわんや居心地がいい。
◆千代田区神田神保町2-23-5北井ビル1階・地下1階/地下鉄各線神保町駅A1出口から徒歩2分/11時半~19時、無休(お盆、年末年始を除く)
ウチのおすすめ本
「真田太平記(一)天魔の夏」池波正太郎著、新潮文庫 990円
関西人の多くは、豊臣秀吉びいきで、豊臣家を助けた真田幸村をヒーローとする感覚があるという。少年の日の今村翔吾さんもそうだった。
「京都府南部の木津川市の出身。生活圏は奈良でした。小学5年の夏休みに、奈良市内の古本屋で『真田』の文字を見つけて買って帰り、夢中で読んだのが、この本の単行本。35日で、全16巻を読破したんです。私にとって記念すべき本なので、私の個人棚『塞王堂』に常備しています」(今村さん)