高野秀行(ノンフィクション作家)
9月×日 張國立著「炒飯狙撃手」(ハーパーコリンズ・ジャパン 1390円)を読んだ。凄腕のスナイパーと定年間近の刑事が織りなす冒険ミステリー。スナイパーが炒飯作りの名手でもあり、刑事も美味いものが大好きというのがさすが台湾。文章も食べ物も美味なのだ。
9月×日 拙著「イラク水滸伝」がなんとBunkamuraドゥマゴ文学賞を受賞。この賞は毎年1人の選考委員が受賞作を選ぶのだが、今年の選考委員は桐野夏生さん。若い頃、「OUT」をはじめ、桐野さんの作品を貪り読んでいただけに嬉しさもひとしお。
9月×日 あまりに暑い日が続くので、とある高原の川辺で数日キャンプ。で、読んだ鈴木紀之著「ダーウィン『進化論の父』の大いなる遺産」(中央公論新社 1100円)がめっちゃ面白かった。信じられないほど多岐にわたるダーウィンの業績を1つずつ取り上げ、それぞれ、①なぜダーウィンがそのテーマに目をつけたのか? ②どのような手法でデータを集めたのか? ③どのように一般法則化したのか? ④現在の科学においてそれがどういう意味をもっているのか? を、きちんと描いており、とてもわかりやすく、ダーウィンの業績の凄さと彼の仕事によっていかに科学のパラダイムが変わっていったのかが手に取るようにわかった。構成、文章ともにほとんど完璧だと思う。
9月×日 内澤旬子著「私はヤギになりたい ヤギ飼い十二カ月」(山と溪谷社 1980円)を読む。内澤さんは小豆島でヤギを数頭飼っているが、エサとなる「雑草」を毎日かき集めるうちに地元の自然にすごく詳しくなっていく。思えば、山歩きなどしても自然の上っ面をなでるだけで全く関わりがない。それに比べて、愛するヤギのため、手には鎌をもち血眼になって、まるで妖怪「草取り女」のごとく雑草を狙っている内澤さんは本当の意味で自然に関わって生きているように見える。雑草から見た小豆島の四季おりおりの風景は美しく、内澤さんのヤギへの愛情は羨ましいほどで、私は内澤さんのヤギになりたくなった。