間村俊一(装幀家・俳人)
10月×日 浅草木馬亭。浪曲師・玉川奈々福、落語家・桂吉坊の二人会。吉坊の「本能寺」が圧巻。替わって奈々福は、御存知「平手の駆けつけ」。平手造酒と信長の最後がシンクロする。大当たり!
稀代のドイツ文学者、種村季弘さんが亡くなって20年。「綺想の美術廻廊──種村季弘・異端断片集」(芸術新聞社 3630円)を装幀した。現代美術作家の作品と怪人タネムラの妖しくも美しいコレスポンダンスである。吸血鬼、化身、怪物、魔術にテーマ分けされた本書に跋扈する異形の住人たち。なかんずく喉から滴る深紅の血を吸いあう山本タカトの美少年2人、その切れ長の三白眼の恍惚を見よ。まさしく種村さん好みの倒錯の一幅である。巻末のご子息、品麻さんのインタビューが出色、父君のシッポが活写されている。総勢5人、観音裏「なおた」で乾杯。
10月×日 甲子園、阪神VSDeNAのCS第2戦。バックネット裏は解説席のすぐうしろ、「ええ席やなあ」とわが友栄ちゃん、船場生まれの浪花っ子である。1回裏の森下の先制ホームランに嫌な予感、やっぱり阪神ファンのさがやなあ。
捕物帳だ。新刊である。しかも500頁を越える大冊。むかし岡本綺堂の「半七捕物帳」を装幀したことがある。全6巻、函入りの豪華本だった。装画は吉原風俗絵師の三谷一馬さん、それ以来の捕物帳ファンだ。
浅草の薬種問屋が火事になる。北町奉行定町廻同心(じょうまちまわりどうしん)、服部惣十郎の登場である。焼け跡には、蔵で殺された番頭と、誰だか判らない黒焦げの死体がひとつ。やがて事件は江戸の疱瘡をめぐる医療ミステリーへと雪崩れ込む。
「惣十郎浮世始末」(中央公論新社 2585円)。木内昇によって捕物帳が令和に甦った。嬉しいかぎりだ。下駄に残った油の匂いを嗅ぐ惣十郎の推理の冴え、まさにホームズばりの正統なミステリーである。岡っ引佐吉との伝法な遣り取り、事件を織りなす江戸の四季の風情が心憎い。それにしても史享(ふみたか)が悲しい。惣十郎もお雅も哀しい。続編が待たれる。
案の定、10対3で阪神完敗。難波は「牧水」にて涙酒、岡田監督最後の試合やったな栄ちゃん、名物笹ずしをオカダ・コールで包んでもらおう。<秋風やちよつと聞きてえことがある 俊一>