「沸騰大陸」三浦英之著

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「沸騰大陸」三浦英之著

 今この時代に、この地球上で、こんなことが起きているのか! ぬるま湯のような日常につかっている日本人は驚愕するだろう。

 アフリカ大陸は人間の本性をむき出しにして煮えたぎっている。ニュース報道や旅行記からは見えてこないアフリカのリアルを伝えるノンフィクション。

 著者は朝日新聞記者でルポライター。2014年から3年間、特派員としてアフリカに駐在し、カメラを手に大陸中を歩き回った。大きな事件やメインテーマを追う一方で、名もなき人たちの日常や小さな物語を取材し続けた。その膨大な取材メモをもとに書かれた本作はルポ・エッセーとでもいうべきもので、文章から著者の驚きや怒りや悲しみがあふれ出る。新聞記事にはできなかった生々しい事実も明かされている。

 ウガンダでは、巨額資金を投じたビルの建設現場で子どもたちが生け贄にされていた。貪欲に富を求める者が迷信にすがって無垢の子どもを埋め、傷つけた。かろうじて救出された子どもたちにはひどい傷痕があった。その一人一人を泣きながら丁寧に撮影し、著者は思う。

「絶対に伝えてやる。この悲劇を世界へと伝えてやる──」

 30年前、ルワンダで少数民族の大虐殺があったことは日本でも大きく報じられた。隣人が隣人を殺した本当の理由を知りたくて著者は現地に行き、加害者の話を聞いた。あのとき、政府がラジオで「ゴキブリを殺せ」と叫び、みんなが同じように叫んだ。「自分だけ抵抗するのは難しかったんだ」と加害者は言い訳した。共存してきた少数民族を皆殺しにするほどの憎しみはヘイトスピーチが生み出したものだった。

 人間は恐ろしい生き物だ。日本人だって例外ではないだろう。人間の本性がベールに隠されているだけなのだ。

 著者が五感で感じ取ったアフリカ大陸は、とんでもなく過酷で、とてつもなく美しい。遠くおぼろげな大陸が少しはっきり見えてくる。 (集英社 2090円)

【連載】ノンフィクションが面白い

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