「中国の反体制活動家たち」イアン・ジョンソン著 竹田円訳

公開日: 更新日:

「中国の反体制活動家たち」イアン・ジョンソン著 竹田円訳

 権威主義の国・中国の国民には知る権利も言論の自由も認められていない。中国共産党は歴史を粉飾し、自分たちに都合のいい「正史」を国民に押しつけている。そんな社会にあっても歴史の真実を掘り起こし、世に伝えようと命がけで奮闘している人たちがいる。彼らの肉声に耳を傾け、その作品をひもときながら知られざる中国の抵抗運動史を記録した価値あるノンフィクション。

 著者はカナダ出身のピュリツァー賞作家で、20年以上、中国に滞在し、ジャーナリストとして同国が抱える問題を見つめてきた。本作に登場する反体制活動家たちを、著者は「地下歴史家」と呼ぶ。彼らは声高に反体制を叫ぶわけではない。中国国内で仕事をしながら、発禁本や地下雑誌を出版したり、1人でドキュメンタリー映画を製作するなど粘り強く活動している。

 たとえば、映像作家の艾曉明は中国西北部にかつてあった強制収容所のドキュメンタリー映画を作った。ジャーナリストの江雪は大飢饉があった1960年に学生たちが出版した「星火」という雑誌の悲劇を追った。

 国家的惨事を生き延びた人たちの記憶や証言から隠された歴史の一断面が見えてくる。文化大革命、天安門事件、コロナ禍……。あのとき何が起きていたのか。なぜ膨大な犠牲者が出たのか。地下歴史家の活動は、共産党が正史から消し去った事実を明るみに出す。国家相手の一見無力な闘いは、決して無意味ではない。江雪は淡々とした口調で著者に語る。

「私は、まともでない社会の、まともな人間でありたい」

 地下歴史家それぞれの闘いは、中国の闇にかすかにともる小さな炎のようだ。だが近年、デジタル技術によってネットワークが広がり、彼らの運動は勢いを増しているという。小さな炎は、やがて国を変えるほど大きくなるかもしれない。 (河出書房新社 3960円)

【連載】ノンフィクションが面白い

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    大谷翔平の28年ロス五輪出場が困難な「3つの理由」 選手会専務理事と直接会談も“武器”にならず

  2. 2

    “氷河期世代”安住紳一郎アナはなぜ炎上を阻止できず? Nキャス「氷河期特集」識者の笑顔に非難の声も

  3. 3

    不謹慎だが…4番の金本知憲さんの本塁打を素直に喜べなかった。気持ちが切れてしまうのだ

  4. 4

    バント失敗で即二軍落ちしたとき岡田二軍監督に救われた。全て「本音」なところが尊敬できた

  5. 5

    大阪万博の「跡地利用」基本計画は“横文字てんこ盛り”で意味不明…それより赤字対策が先ちゃうか?

  1. 6

    大谷翔平が看破した佐々木朗希の課題…「思うように投げられないかもしれない」

  2. 7

    大谷「二刀流」あと1年での“強制終了”に現実味…圧巻パフォーマンスの代償、2年連続5度目の手術

  3. 8

    国民民主党は“用済み”寸前…石破首相が高校授業料無償化めぐる維新の要求に「満額回答」で大ピンチ

  4. 9

    野村監督に「不平不満を持っているようにしか見えない」と問い詰められて…

  5. 10

    「今岡、お前か?」 マル秘の “ノムラの考え” が流出すると犯人だと疑われたが…