「終の快楽」工藤美代子氏

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「終の快楽」工藤美代子氏

 70代、80代、90代という、シニア女性たちの性愛事情をつづったノンフィクションエッセーである。「その年齢でそんなことを!?」と驚くかもしれない。しかし、年齢で恋愛やセックスから引退しなければならない道理はなく、むしろそんな考え方は時代遅れであることを本書は教えてくれる。

「私自身も、あと10年ぐらいはつつがなく生きて、周囲に迷惑かけずに死ねればいいと思っていたタイプ。この年齢になれば恋愛やセックスなどは“今さら面倒くさい”というカテゴリーに入っていて、みんなそうだと思っていました。ところがこのところ、シニア女性たちからの恋愛相談が増え、自分の勘違いに気づかされたんです。そこから取材を重ね、彼女たちの本音に迫りました」

 本書に登場するシニア女性たちの恋愛模様は、若い世代のそれと何ら変わりない。例えば、サヨ子さんが恋に落ちたのは亡き夫が通っていた歯科の医師。5歳年下の彼と濃厚な関係を楽しんでいたが、妻に関係がバレたと言い別れを考え出した恋人をつなぎとめるため、サヨ子さんは“自殺未遂”を図る。

 趣味のサークルで出会った同い年の男性と大恋愛中なのがミエさん。彼は長身でお洒落なばかりか、ミエさんの耳元で「あなたは美しい。素敵だ」と熱い賛美を繰り返し、何度もイカせてくれる。しかしあるとき、彼には病気の妻がいたことを知り、猛烈と怒ったミエさんは妻と離婚して自分と結婚することを迫る。

 ちなみに、サヨ子さんは75歳。ミエさんは82歳である。

「今のシニア女性は若々しく、老女などとは決して言えないほど溌剌としています。まして、私が話を聞いた女性たちはリアルタイムで恋愛中ですから、フェロモンのようなものをまとっていてハッとするほど魅力的。シニア世代だからといって、女性たちが恋愛やセックスを諦める時代は確実に終わったと感じますね」

 年齢を重ねると、顔は化粧で整えられても体形の崩れは何ともしがたい。それでセックスに躊躇するのではないかと思いきや、シニアには知恵があると著者。

「取材した女性にその疑問をぶつけたことがあるのですが、いわく『服を脱がなければいいのよ』と。確かに、セックスは全裸でするものと思い込んでいましたが、着衣でしてもいいわけです。セクシーな下着に細工を施し、下着を脱がなくても挿入ができるように工夫している女性もいました。シニアのセックスは奥が深いんです」

 本書では、老人ホームで出会った男性80歳、女性90歳のカップルの大恋愛など、人生の先輩たちの頼もしい姿も描かれている。“人生100年時代”を語るとき、その充実のためには仕事や趣味の充実が大切といわれる。しかし、恋愛やセックスについてはあまり触れられないのはおかしな話だ。

「女性たちは、閉経してからも半世紀近い日々を女性として生きる時代です。その中で、恋愛やセックスを経験するのは当たり前のこと。そしてその権利を、シニア女性たちは着実に行使しつつあるのです」

“いい年をして”などと油断している間に置いていかれることのないよう、男を磨いておかなければ。

(世界文化社 1980円)

▽工藤美代子(くどう・みよこ)1950年生まれ。ノンフィクション作家。チェコのカレル大学を経てカナダのコロンビア・カレッジを卒業。1991年に「工藤写真館の昭和」で講談社ノンフィクション賞を受賞。「快楽」「後妻白書 幸せをさがす女たち」「われ巣鴨に出頭せず 近衛文麿と天皇」「女性皇族の結婚とは何か」など著書多数。

【連載】著者インタビュー

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