「みんなの高校地学 おもしろくて役に立つ、地球と宇宙の全常識」鎌田浩毅、蜷川雅晴 著/講談社ブルーバックス(選者:佐藤優)
効率的に学べる 特に地震との関連での記述が有益だ
「みんなの高校地学 おもしろくて役に立つ、地球と宇宙の全常識」鎌田浩毅、蜷川雅晴 著
高校で地学は正式の科目として設置されているにもかかわらず、履修する生徒が少ない。大学入試でも地学を選択する受験生はあまりいない。そのため地学の教員がいない高校もある。
しかし、地学には社会に出てから役に立つ知識が多数含まれている。本書は社会人が高校レベルの地学を効率的に学べるような親切な作りになっている。
とくに地震との関連での記述が有益だ。内閣府の試算によると南海トラフ地震が起きると6800万人が被災するという。日本の総人口の約半数だ。政府の地震調査委員会は今後30年に南海トラフ地震が発生する確率を70~80%としている。これだと、どれくらいのリスクが起きるか、普通の国民が皮膚感覚でとらえることができない。
<そこで、メッセージを次の2項目に絞ったらどうでしょうか。/①南海トラフ巨大地震は約10年後に必ず襲ってくる(2030年~2040年)/②その災害規模は東日本大震災より1桁大きい/こちらのほうがずっと伝わりやすいと思います。確率的な表現では人は動きません。たとえば、ビジネスで重要なポイントとなる納期・納品量を伝えるときのように表現したほうが、市民も主体的に動きやすいのではないかと考えるのです。/人々が自発的に避難すれば、津波の犠牲者を最大8割減らすことができ、また建物の耐震化率を引き上げれば全壊も4割減らせます>。
国民一人ひとりが南海トラフ地震に備える必要がある。約10年後に巨大地震が襲ってきて、日本の半数が被災するのであるならば、政府が十分な対応を取れないことは明
白だからだ。地震直後の食料備蓄など、自分の身は自分で守る態勢をとらなくてはならない。理科系の専門的な事柄を一般国民に伝えるためには、サイエンスコミュニケーションの専門家が必要だ。
同志社大学には生命医科学部の野口範子教授が主宰する「サイエンスコミュニケーター養成副専攻」という講座が設けられ、評者も講義を担当している。本書を用いて、地学の知識とキリスト教神学を結びつける講義をしてみたい。本書はサイエンスコミュニケーションの模範的作品だ。 ★★★(2025年2月4日脱稿)