「フィルス」アーヴィン・ウェルシュ(原作・製作総指揮)
妻に逃げられ、うらぶれた中年男が、まずは腐った社会、組織から這い上がろうとあがく。90年代、渋谷のミニシアターでロングランを記録した「トレインスポッティング」と同じ小説家アーヴィン・ウェルシュ(55)が原作を書き、製作総指揮も担当した話題の新作「フィルス」である。
――舞台はスコットランドなのに、日本の今の閉塞感、世相を反映しているようにも見えます。
「どこか普遍的なところがあるのかも知れませんね。この作品は私が作家になる前、エディンバラの市役所で働いていた時の体験がベースになっているんです。ちょうど閉鎖的なヒエラルキー(階層構造)が崩れ、組織改革が行われる過程で居場所をなくし、アル中や精神を病む中高年を何人も見てきました。行政であれ会社であれ、組織が家族のように面倒を見てくれた時代ではもはやないんですね。そんなこぼれ落ちそうになる中年男を描きたかった。役所と同じくらい閉鎖的で、よりドラマチックになると思い、警察に置き換えてみたんです」
――アルコールにコカイン中毒で、同僚の妻にも手を出すブルース刑事(ジェームズ・マカヴォイ)は、麻薬中毒の若者マークが主人公の「トレスポ」の中年版なのですか?