「ゼロ・グラビティ」アルフォンソン・キュアロン監督
■逆境は再生の可能性をはらむ
地球上空60万メートルで船外ミッション中のスペースシャトルが、超スピードで飛んできた人工衛星の破片に衝突し大破。乗組員のライアン博士(サンドラ・ブロック)は酸素も音も気圧もないゼロ・グラビティ(無重力)空間に放り出され、命綱まで切れてしまう。圧巻の3D映像で、A・キュアロン監督(52)は観客を宇宙へと連れていく。
(聞き手・東紗友美)
――「2001年宇宙の旅」を引き合いに出す評論家が多いですね。
「とても光栄ですけれど、もともと宇宙を描こうとして始めたわけじゃないんです。スピルバーグ監督の『激突!』や黒沢明監督原案の『暴走機関車』のようなタイトなサスペンスを通して、このどうしようもならない人生を受け止め、生きていかなければならないんだという実存主義の思想を感じられる映画を、と思ったのが出発点でした」
――それが宇宙になったのは?
「見てくれる人が登場人物と一体になり、ともに感情の旅をしてもらえるならどこだろうと考えて、究極の背景として浮かんだんです。僕は人類初の月面着陸をTVで見た世代でして、宇宙への憧れとともに、無重力の空間にひとり浮遊している姿を想像しては、興奮と悲しみ、畏怖などを感じていました。最初に息子が脚本を書いてきた時、そうした記憶の封印が解かれた気がしました」